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第136話 命side

大きな音がして、早河の怒鳴り声と赤石の声が聞こえて、すぐにユキとシロに寝室に行ってもらった。 リビングにいくと般若のようなきつい顔をした早河に睨まれて「座れ」と言われる。赤石の口の端には血が滲んでいた。 「…命、何してたのか正直に言え」 「何でだよ」 「いいから言え」 鋭い目が俺を見てそれからスッと目を逸らし黙った。 「もー、何で俺とみっちゃんがセックスしただけで怒ってるの?早河には関係ないでしょ」 「あ"?」 「だからぁ、セックスしただけじゃん。お互い大人だし別にいいでしょうが。」 「赤石はどうでもいいんだよ。俺は命に聞いてんだ。命はユキくんがいるんだろうが。なのにそのユキくんを放ったらかして……、俺はお前らにそんなことをさせる為に休みやったわけじゃねえぞ」 舌打ちをしてから、早河は言葉を続けた。 「ユキくんを守れって親父も言ってたよな?今ユキくんにはお前しかいねえんだよ。お前に裏切られたら、嘘つかれたらあの子はどう思う。お前が守らないといけないのに、お前が傷つけてどうするんだ」 「………………」 「それがわかってて、赤石とそんなことしてたなら俺はユキくんをお前に預けてられない。」 「…ごめん」 「それは俺に言う言葉じゃねえだろ。」 「……ああ」 わかってはいるんだけど。そんなに上手いこと気持ちが動くわけじゃない。 「赤石は俺と帰るぞ」 「えー、帰るったってどうせ組で説教でしょ」 「いいから早く来い。」 「ちぇ~」と言いながらも早河について家を出ていく。 玄関で「ユキくんはお前がおかしいのをとっくに気づいてるはずだ。どうしたらお前が元気になるかきっと悩んでる」って早河に言われて少し動揺した。 二人が出ていってからユキのいる寝室に行く。ユキはベッドの上でシロを撫でながら体育座りをしていた。 「ユキ…」 「早河さんと、赤石さん、いない…?」 「いないよ、帰った。」 「…命…ギューして…?」 両腕を広げて首を傾げたユキ。言われた通りにユキを抱き締めると背中を優しく撫でられた。 「…あのね…僕泣いたら、命…背中ポンポンしてくれるの…」 「…ああ」 「僕…そしたらもう泣かないの…」 「うん」 「命も…泣かないで…?」 泣いてなんかないのに、ユキにはそう見えるのか。そっとユキを離して息を吐いてからユキをまっすぐ見た。 「…ユキ、俺お前に嘘ついた」 「…う、そ…?」 「今日は仕事なんかしてなかった。ずっと…赤石といた」 「赤石さんと…?」 「赤石としちゃいけないことした。」 何てユキに説明したらいいのかわからなくてそれっぽい言葉を選ぶけどこんなんじゃきっと伝わらない。 「…チューしたの…?」 「したよ」 「…ぅ…ギューもしたのぉ…?」 ユキの目にたくさん涙がたまっていってついには零れる。 「した。」 「…うっ……んっ…」 「でも好きだからとかじゃなかった、正直どうでもよかったんだ。」 涙に濡れた頬に触れて何でだろう、俺は泣くべきじゃないのに胸がぐっと熱くなる。 「……嫌なことがあって、忘れたいと思ったから。」 「…んっ…僕…僕だって…チューするもん」 「ユキ…?」 「命が…好きだもん…」 本格的に泣き出したユキは俺の胸に顔をくっつけた。服が涙に濡れる、暖かかったそれはすぐに冷たくなって俺の体を冷やす。 「僕の、命なの…」 「……っ」 息が苦しくなった。こんなに想ってくれてるのに俺は赤石と何をしてるんだろう。そう思えばこいつに触れていいのかさえわからなくなっていく。 「…命…僕のこと…好き…?」 「……す、き…」 「僕、一番…?」 涙に濡れた不安そうな目が俺を見る。 「一番」 本心なのに、その言葉をいった途端まるで嘘をついた時のように鼓動が速くなる。 「命の、お嘘…僕、いいよ、する」 「ごめん」 「いいよ」 「ありがとう」 ユキを強く抱きしめるとその鼓動はもっと速くなった。

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