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第138話
ある日を境によく携帯に電話がかかるようになった。見たことのない番号で無視をしていた。
けれどそうもいかなくなった。家の固定電話に同じ番号からかけられてきたのだ。うちの電話はかけてきた相手の番号を表示してくれるようになっている。携帯にかかってきた電話番号だと気づいて受話器をとった。
「……もしもし?」
相手は女、しかも聞いたことのある声、この声は…
「茉美さんでしょうか」
「正解、貴方は命よね?もう期限は過ぎたのに貴方から連絡が来ないものだから心配していたの。」
だからって電話してくるか…?というか、この番号を何で…ああ、調べたのか。
「命?聞いてるの?」
「…ああ、すみません」
「返事を聞かせて」
「…すみませんが、俺は芦屋組には行きません。」
ユキが向こうでテレビを見てる。ユキの声が相手に聞こえないようにテレビの音をあげて、不思議そうにこっちを見たユキに口の前で人差し指を立てて見せた。頷いたユキが口を両手で押さえてる。
「──命?」
「はい」
「どうして?」
「…どうして、とは?」
「いいから芦屋に来なさい!!」
突然大声をあげられて受話器を自分から離した。豹変しやがった、女はこれだから面倒くさい。
「お断りします。」
「貴方ねえ!!」
「失礼します。」
受話器をおいてから気付く。どうせこの家の住所もバレている。ユキが危ないかもしれない。
「ユキ、出るぞ」
「…え…お外真っ暗…」
「早く用意しろ」
意味がわからないとハテナマークを浮かべてるユキに申し訳なく思いながら早河に電話を掛けた。
***
車を運転して早河の家に向かう。連絡で家に行くとは伝えていた。インターフォンを鳴らすとすぐに出てきた早河はいつもと違って緩い服装をしている。
「おい、何だよ急に」
「芦屋に家に来るかもしれない。もしその時にユキがいたらユキが危ない。」
「…何で家」
「調べようと思えればいくらだってできるのはお前が一番知ってるだろ。家に電話が来た。どうせ場所もわかってる」
「ユキくんを預かれってことか」
「お前なら安心できる」
「…わかった。親父には言っておく。」
ユキは一人ハテナマークを頭に浮かべている。とりあえず早河の家に上がってユキにしばらくここにいるように話をすることにした。
ソファーに座らせ真正面からユキの肩を持って目を合わせる。
「絶対迎えに来る、だからここにいろ」
「ここに…?命、どこか行くの…?」
「ちょっとの間だけな。」
「ちょっとって、どれくらいなの…?」
不安そうな目。そりゃそうだ、俺だって不安で仕方ない。
「わかんねえけど、ここなら絶対安全だから。」
「命は…?」
「ちゃんと迎えに来る。約束しよう」
約束ごとはあまり好きではなかった。
「うん…僕、我慢する。約束する」
「ありがとう」
でもこれだけはどうしても約束しないといけない気がして。
「大好きだ、愛してるよ。」
こんなにも言葉を伝えたのは、
「僕も、大好き…」
きっとこれからどうなるのか、少しだけわかっていたような気がしていたからだと思う。
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