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第144話
トラに会った日から何日が経っただろうか。
今日は芦屋組がやたらと騒がしい。シロも何かに怯えているようで俺の傍から離れない。
「命っ!!」
部屋のドアが開いて茉美が二人の男をつれて立っていた。その手にはナイフ。慌ててシロを抱き上げてどこからか逃がそうと腕の中に閉じ込めた。
「…あんたの仕業ね…浅羽が攻めてきた……芦屋はもう終わってしまうわ!!……だから、せめてあんたを殺してあたしも死のうと思って…」
鋭い刃がこちらを向く。男二人は何のためにいるのかさえわからない。けれどそんなことは気にしてられなくて、こっちに走ってきた茉美を交わして部屋を出て怒号の響く芦屋組の廊下を抜けようとしたところで男の腕が俺を掴んだ。
そのまま腰辺りに衝撃、痛みで体がガクッと震えてそのまま倒れた。シロは逃がしてやらないとと腕の力を緩めると一目散に走っていく。早河か赤石か鳥居が気付いてシロを助けてくれたら…。
腰辺りに刺さっているナイフは抜かれることはない。茉美は?と振り返ると焦点の合わない目でこっちを向いていた。男たちはそんな茉美をも置いて何処かへ走っていく。うるさい銃声、骨の折れるような音に血飛沫。
「…お、い…」
「……命…」
「…っ…あ"ぁ…っ!」
俺の方に近づいてきてナイフを引き抜いた茉美はもう一度俺の背中にそれを突き刺す。痛みを堪えて体を反転させ茉美の手からからナイフを弾き遠くへ飛ばして、茉美の震える体を俺の腕の中にいれる。
「落ち着け」
「…あんたとせいで、こんなことになってるのよ」
「わかってる。でも…お前は、薬なんて、やりたくてしてたんじゃないだろ…」
「…何言ってるの」
「…ただ寂しかったんだろ」
組員からはさっきみたいに信頼されずに、姉がいるから必ず何もかもが二番目。
それでも親父には愛されていたと思うから俺にはその寂しさが理解できない。
茉美はそれが嫌で薬に手を伸ばした。止めてくれる人もいなかったんだろう、それだけは同情する。
「大丈夫。お前は薬をやめられる。…俺が、お前の家族をバラバラにした、責任をとる…お前を、助けてやる」
「…ふっ…」
茉美の頬に涙が伝う、それに薄く笑うとだんだんと眠たくなってきて目を閉じそうになった。血が流れすぎたのかもしれない。
「…ごめ…なさい……血…止めなきゃ……」
泣きながら俺の部屋からタオルやら何やらをとってきて傷に押し当てる。激痛を歯を食い縛って堪える俺に何度も謝りながら涙を流す茉美、少しして茉美に手を借りながら起き上がった。
「…とりあえず、外出るぞ…」
「…ええ。」
肩を借りて歩くけどどうしても痛くて3歩歩いたところで膝を崩してしまった。
「…命!命!!」
「…っ」
茉美に声をかけられるけれど痛みで声がでなかった。大丈夫だと薄く笑えば頬に茉美の涙がポタポタ落ちてくる。
そんな時、うるさい足音が聞こえてきた。
まだ寝てはいられない。もし今こっちに来てるのが浅羽組の奴等なら、茉美を傷つけてやるなと言ってやらなきゃ。
そしてその足音は俺達の傍で止まった。
「命ッ!!」
「黒沼!?」
早河と八田の声が聞こえて顔をあげる。眉間に皺を寄せた二人が俺を起こして茉美を俺から遠ざけた。
「…そいつには、何もすんな」
「こいつも芦屋だ」
「……早河、頼むよ…」
意識が遠退く。耳元で八田の声がするけれど全くうるさく感じない。
「…頼む…から…」
フッと視界が真っ暗になった。
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