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第156話
早河から引ったくった資料に目を通してデータをパソコンに打ち付けた。幹部室には俺しかいない。八田はきっと取り立てに行ってて…赤石はと中尾は?
入力し終わった資料を纏めた物を片手に幹部室を出て親父のところへ向かう。
廊下を歩いているとなんだか騒がしい声が若の部屋から聞こえてきて…もしかしたら二人はここにいるのかもしれない。親父にこれを渡してから若の部屋にお邪魔しよう。
廊下を少し歩いてドドンと構えた大きな部屋の前で声をあげた。
「命です。」
「──入れ」
「失礼します」
部屋に入り頭を下げる。途端いつもと違う甘い匂いがふんわりと薫った。もしかして?と思い早々に下げた頭を上げる。
「…命、久しぶりね」
「華 さん…」
親父の隣で優しく微笑む華さんはこの組の姐さんの位置にいる。つまりは親父の嫁さんで若の母親。
「華さん、体調は大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、ありがとう。」
華さんは体が弱くて寝込んでしまうことが多々ある。辛い筈なのに組の事を一生懸命考えてくれるから組員からも好かれているし何よりとてつもなく美人だし。
「命こそ大丈夫なの?少し前刺されたって聞いたけど…」
「それはもう大丈夫です。」
「───命、何か用があったんじゃねえのか?」
華さんと話していると親父がいつもより厳しい声で俺にそう言う。あれ、もしかして華さんと話していたから怒ってしまったのか…?嫉妬と言うやつですか…?
「資料纏めたので持ってきました」
「ありがとな、そこに置いといてくれ」
「はい。…では失礼します」
部屋を出て今度は若のところに。もし赤石と中尾がいたならさっさと今日の分の仕事を終わらせろって言わねえと。
いつもはこれが早河の役目になっていた。決められたとかではなくて暗黙の了解みたいな。
結構面倒なんだなぁと思うと早河への申し訳なさで胸がいっぱいになった。
若の部屋を覗くと赤石と中尾がやっぱりそこにいた。若の学校から出されている課題を必死に解いている。赤石が俺を見て目を輝かせた。
「みっちゃん!!みっちゃんが来たならもう大丈夫だよ若!!」
「は?」
「そうだ!命は確か頭良かったよな!」
「え、は?俺が解くのか!?」
中尾と赤石に腕を引かれて課題の前につれてこられる。
「…若、課題というのは自分でやるものでして……」
「わかんねえんだから仕方ねえだろ」
「…そうかもしれませんが…」
それなら担任に聞いてみたりしたら良いと思うんだが。
「じゃあ俺が解きます、それから若が理解できるまで説明します。真剣に説明を聞いて理解しようとしてくれるなら…やります。」
「……わかったよ」
勉強が嫌いな若は渋々頷いた。俺は満足して赤石からシャーペンを引ったくって問題を睨んだ。
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