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第13話

次の日、リビングで仕事の続きをするためにタブレット端末で情報を確認していると、 「広瀬さん」とかなり近い距離で呼ばれた。 広瀬は、びくっとしてしまう。 同じ高さから、同じ声が、自分を呼ぶ。 身体をこわばらせたのがわかったのだろう。 「驚かせたな。ごめん」と東城が言った。 「いえ、大丈夫です。なんですか?」広瀬は、彼を見上げた。 「トレーニング用のもの、どこにしまってるか知らないかな」と彼が聞いてくる。「ウェアや靴が、少ししか見つからなくて。どこかに、片付けているんだと思うんだけど、わからないんだ」と彼が言った。「今朝、走ろうと思ったんだけど、見当たらなかった」 「トレーニングルームには?」と広瀬は聞いた。 「鍵がかかってて」と彼が言った。 広瀬はうなずき、廊下にでると一階の端にあるトレーニングルームに向かって歩いた。東城がわざわざトレーニングルームに鍵をかける理由がわからなかった。お前も運動不足にならないように使え、と言っていたくらいなのだ。 トレーニングルームのドアノブを回そうとしたが、動かない。確かに鍵はかかっているようだ。 なんだって鍵なんかかけたんだろうか、と広瀬は不思議になる。 「いつもはかけてない?」 「はい」と広瀬は答えた。「東城さんの部屋に置いているのかも」 二人で二階に行き、東城の部屋に入った。自分の部屋とはいえ彼にはなじみの薄い場所だ。机の上を見ている。鍵らしきものはない。 「机の引き出しは?」と広瀬が言った。 「開けていいのかな」 「東城さんのものですよ」 「それはわかってんだけど」と彼は言う。こわごわという手つきで引き出しをあけた。 文房具やメモ書きが入っている。書類も何点か。 「やましいものはなさそうだな」と彼は言った。 「やましいものってなんですか?」 「いやあ、それがわかんないから開けるとき緊張するんだろ」 そう言いながら東城は笑い、引き出しの中をかき回し、ブツブツ言っている。 「俺のことだから、やましいものを誰かにすぐにみられるところに置いといたりはしないとは思うんだけどな。ここ数年で考え方が変わるってこともあるし」 何だか知らないが、相当やましいものがどこかに隠してあると言うことだろう。思わず広瀬は部屋の中を見回してしまった。ここではなく、屋根裏のどこかに隠している可能性もある。 東城があけたデスクの二段目の引き出しに、それらしき鍵が入っていた。

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