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第16話
数日後、広瀬が風呂から上がり部屋着に着替えてリビングに入ると、ちょうど東城が自分を探している様子で近づいてきた。
最近にはない険しい顔をしている。
「これ、なんだよ」
手にしている紙きれを広瀬の目の前にみせてくる。
手書きで住所と電話番号が書いてある。
東城達史が、広瀬のポケットに勝手に突っ込できたものだ。
「どうしてそれを?」
「洗濯室のところに落ちてたんだ。不用心だな。こんな大事なモノ落とすなんて」
「大事なものではありません」捨てようと思っていたのだ。
「ああ、そう。誰の電話だと思ってかけてみたんだ。そうしたら、達史さんがでたよ。引っ越し先を紹介したって言ってた。達史さんの家に引っ越すつもりなのか?」
「引っ越しはしません」
「じゃあ、なんで持ってたんだ」
「それは、彼が勝手に俺のポケットに入れただけです」
「関心のないものなんだな?」
「そうです」
「達史さんとはどういう関係なんだ?」
「関係は全くありません。彼が、家を紹介すると言ってきただけです」
「達史さんがあなたに声をかけてきたってことは、付き合おうって言ってきたってことだろう。あの人、ねらった相手には絶対にアプローチするし、手に入れるためならなんだってする。あなたが望めば、どんなこともかなえるとか言ったろう。広瀬さんのこと、きれいだとかなんとか、褒めたりもしたはずだ」
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