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第24話

いつの間にか眠っていたのだろう。 自分を呼ぶ声がした。 「広瀬」 夢だ。あの口調で、呼んでいる。東城の声。ちょっと偉そうで、ちょっと甘えるようで、広瀬のことをバカだとか、愛しているとか、平気で言う。 もう一度声がした。 「広瀬、寝てるのか?」 涙が、出てきそうになるのをこらえた。夢で泣きたくなんかない。 手が頬をなでた。 慣れたしぐさ。 思わずその手を握った。夢の中なのに、それは確かな感触だった。 温かくて、手のひらがところどころ固くなっている。頬から指をすべらせ唇を親指の先でなでられる。それは、いつもの彼のしぐさだった。 広瀬は、目を開けた。 東城が、こちらを見ている。 「おはよう」と彼が言った。 低い声で、いつもの通り。自分を愛おしむ優しい目をしていた。 「東城さん」声がでたのが不思議なくらいだ。 広瀬は、彼の首に手を伸ばした。そして、抱きついた。 彼の腕が自分の背中に回った。抱きしめてくれる。 しばらく離れることができなかった。手を放したら、また、どこかに行ってしまいそうな気がして。 広瀬は抱きしめたまま、ぎゅっと目を閉じた。夢じゃない。彼だ。 東城はじっとして、広瀬が落ち着くのを待ってくれた。 それから、ゆっくりと身体をはなして、向かい合った。 「心配かけたな。もう大丈夫」と彼は言った。 「記憶、戻ったんですか?」 「ああ。だいたい、戻ってると思う。ところどころ抜けてるかもしれないけど、大事なことは、思い出してる、と思う」 彼はそういうと、広瀬の左目の端に手を伸ばし、そっとぬぐった。 「ごめんな。泣かせるようなことして」 広瀬は、まばたきをした。 「泣いてなんかいません。びっくりしただけです」と答えた。 東城は、うんうんとうなずいた。その動きも、まなざしも、全部、同じ。 広瀬はもう一度手を伸ばし、今度は両手で彼の頬をつつんだ。そして、顔をよせ、唇を重ねた。

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