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第26話
記憶が戻った東城は、翌日美音子の医療センターに行き、精密検査を受けた。記憶を亡くした時と同じで、戻った理由もわからなかったらしい。
検査の後、東城が本庁にいき、福岡に記憶が戻ったことを説明したら、早速、明日から出張になったということだった。やりかけの仕事が山のようにあるから、出張じゃなくてもしばらく帰れそうにない、と東城は電話で広瀬に告げた。
けが人でもないんだからいいだろって容赦ないんだよな、と言っていた。
広瀬は広瀬で管内の傷害致死事件の対応に追われ、ほとんど家に帰れない状態が何日も続いた。
何日かして、やっと、広瀬はまともに東城に会うことができた。
遅い時間に帰ってきた東城が風呂からあがってくる。彼は、リビングのソファーで広瀬がまだ
起きているのをみて顔をほころばせた。
横に座ってくると、彼は、広瀬の髪の毛をかきまわし、こめかみにキスをしてきた。
「待っててくれたんだ」
広瀬は素直にうなずいた。
「仕事の記憶は?」
「問題なかった。ただ、捜査で殴られた瞬間のことは思い出せない。脳神経の先生から、そういう決定的瞬間のは飛んだままだろうって言われた」
彼の唇が、耳から首筋をたどってくる。
吸おうとしたのがわかったので、その時だけは冷静に押しのけた。キスマークをつけられたらあとが面倒だ。
彼の唇が自分の身体なぞるのは気持ちがいい。広瀬は目を閉じた。
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