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第30話

数週間後、リビングのソファーに座る広瀬の前に帰って来たばかりのスーツ姿の東城が立ち、イライラとしながらなにやら説教をしていた。大井戸署での広瀬の行動が彼の耳に入ったらしい。 傷害致死事件の捜査の関係で、刃物と盛ったグループと小競り合いになったのだ。 広瀬は包帯を巻いた自分の左手を見た。確かに今思えばいささか自分の行動も性急すぎたが、こうやって大井戸署の捜査とは無関係の東城にごちゃごちゃ言われる筋合いのないことだった。 左手の包帯も大袈裟にまかれているだけで、怪我はたいしたことはないのだ。 上から目線で偉そうにいう彼を見て、ふと、記憶がなくなったときの東城を思い出した。 あの時の彼は、時々感情を爆発させはしたが、基本的には礼儀正しく丁寧で、広瀬を尊重していた。時々眩しそうに自分を見ていた。 こんな具合にわーわーと頭ごなしには言いそうにはなかった。 同一人物ではあるが、たまにはあっちの東城でもいいかも。 いや、それは贅沢と言うものだろう。こうやって偉そうに注意してくる東城も含めて、彼自身なのだから仕方ないか。とため息をついたら、「お前、聞いてんのかよ」と東城が呆れ声で言った。「危ないことするなって、何回言えばわかるんだよ。怪我までして」 この前無茶をして記憶をなくした東城に言われたくはないものだ、と広瀬は思ったが、その後の話が長くなりそうなので口にはしなかった。 「だいたい、お前は」そう東城が言い始めた時、彼の電話がなった。東城は内ポケットから出して画面を見る。 それから、電話をとって会話を始めた。 様子からすると、親戚の女性の誰かのようだ。適当に相槌を打ち、さっさと切ろうとしているが、なかなか終わってもらえないらしい。大した用事でもないのだろう。 電話を見ているうちに、あることが思い出されてきた。 広瀬は、立ち上がり電話を持つ東城の手に顔を近づけた。仕事以外の電話については、特にルールはない。だが、親戚からの電話の時に広瀬が何かをしたことはなかった。 今、彼の腰に手をかけ、そこからするりと股の上をなでた。 思ってもみたいしぐさに東城は驚いたようだが、避けはせず、会話を続けている。 広瀬が手を上下に動かし刺激を与えると、そこは固くなっていく。東城が横目でじっと自分を見ていた。広瀬が新しいゲームを始めたと思っているのだろう。 「はい。じゃあ、それはまた今度。はい。おやすみなさい」と東城がいい電話を切る。 同時に、「どうした?」と言いながら顔をよせてキスしようとしてきた。

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