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第3話

ユウヤの話 仕事を終えた勢いで駅まで迎えに行ったら、とけるような笑顔をされてその場で抱きしめたくなった。周りはデートが終わって名残惜しそうに別れてゆくカップルが目に付くのに、僕らはここでハグする事すらできない。 部屋に着くと星崎くんはまず濡れた靴やズボンの手入れする。その儀式をいつも通り椅子に腰かけて眺めながらお茶を飲んでいたら、トンデモない事を言い出した。 「妹とその彼氏をご飯に連れてゆくんですけど、一緒に行きませんか?」 友達の妹と一緒にご飯を食べる、ってのはまぁあるだろう。ついでに紹介された事も、これまでの経験ではあった。 そんな事を考えている間に星崎くんは淡々と言葉を続ける。 「フレンチです、あ、もちろん僕持ちです。昔、彼氏が出来たらおごってあげるって約束したら、恋人ができる度に連れてけって言われるんですよね。僕の妹、ちょっと変わってるんです」 妹の話をしている彼は、何だか嬉しそうだ。仲がいいんだろうな。 うちはと言えば、兄弟に『お前ホモなのか?』って言われてぎくしゃくした後、家族とも殆ど連絡を取ってない。 たださ、人と会うのは嫌いじゃないけど、ちょっと場違いじゃないか? 「かわいい妹とその恋人と食事するなら、僕がいちゃ邪魔になるでしょ?」 星崎くんは一瞬黙ってスマホを操作し、画面をこちらに向けた。親しい兄妹関係のにじみ出たメッセージのやり取りが表示されていた。 ダブルデート…ね。久しぶりにそんな単語見たよ。 学生らしいテンションのスタンプを見てからもう一度彼の顔を見上げると、苦笑していた。 まぁ苦笑するしかない。 「妹に言う気?男の恋人と行くよって。その彼氏も来るんでしょ?」 「え?」 星崎くんが目を見開いて珍しくはっきりと感情を見せた。 「ん?」 何か驚くようなことを言ったっけ? 一拍遅れて星崎くんが半泣きのような笑顔になった。 「そう言えば男の恋人ですね」 ああ、そうか。不安だったのは僕だけじゃないよな。口にすると重いんじゃないかと避けていたのはこんな些細な言葉だった。 「それ、終わったんなら一緒にお茶飲もうよ」 立ったままの星崎くんを近くに呼びたくて、お茶を飲む気なんかないのにそんな事を言ってみた。星崎くんは椅子に腰かける代わりにスマホを机にゆっくりと伏せて置き、何も言わずに僕の髪に指を通して頭を抱きかかえた。 柔らかいセーターに包まれて顔じゅうがくすぐったい。 「何?スイッチ入っちゃった?」 「はい、ばっちり入っちゃいました」 くすくす笑っている振動が服越しに伝わってくる。腰を抱き寄せて膝の上に横座りさせると真っ赤になっていた。 「重くないですか?」 「重い、初めて膝に乗せてした(・・)時も実は大変だった」 困った顔になって立とうとする星崎くんを押しとどめ、見上げながら唇を少し開けばすぐにその隙間を埋めてくれた。外の寒さのせいで真っ赤になっていた唇は僕のと違い内から弾けるような柔らかさで、それがすぐに下半身の脈動を呼び寄せる。

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