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第4話
星崎潤の話
(妹からだろうな)と思いつつ膝から降りてスマホを手に取る。
画面をスワイプした途端、堰を切ったように話す清香 の声が聞こえた。
『いまどこ?家?…じゃなさそうだね』
「うん、そう」
『ね、うちの近くのお店に予約入れたんだけど4名でいいんだよね?』
「え?ああ、ちょっと待って」
気休め程度にマイクの辺りを手で覆ってユウヤさんに目配せし「行きますか?やめときますか?」と小声で聞いてみた。正直、行かないって言うと思っていた。
スピーカーから清香のよく通る声が漏れて聞こえる。
『ちょっとおにい、彼女さんそこにいるんでしょ!ちゃんと連れてきて!彼女さんこんばんはー、聞こえますか!?妹のすみかです。来週金曜夜7時です、きてくださーい』
声がでかいよ、しかも高いからハンズフリーにしなくても聞こえてくる。
応えようとマイクから手を放したタイミングでユウヤさんがぼそっと呟いた。
「いや、彼氏ですよ」
え?何言っているんですか?
すごく楽しそうな顔してる…。
『なーに!ちょっと、今彼氏って聞こえたんだけど、彼氏なの?まじで?えーと…じゃあ彼氏さーん、来てください』
清香のテンションが激しく上がって、静かな部屋の中に声が響く。
確かに誘ったのは僕の方で、ユウヤさんが行くという可能性があることは分かっていた。でもこのタイミングで話すこと なんか想定してなかったし、この状況で何をどう伝えれろというんだ?
考える時間を稼ぐためにできるだけ普段通りの声で応えた。
「うん?もしかして本気にした?」
『誤魔化したって無駄、分かるよ!ずっと静かにしてるし、その親密そうな雰囲気、ほんとに彼氏でしょ?』
洞察力があって無駄に勘のいい所は相変わらず。
目の前でユウヤさんは声を殺して笑っているし。
「妹さんと彼が平気なら行くよ」
けたたましく彼氏を見せろという妹の声と、目の前で楽しそうにしている『彼氏です』と言い出したユウヤさんとの間で僕は本当に言葉を失った。
ああ、こういう時は『逃げない、誤魔化さない、でも正面からぶつからない』が鉄則なのに。
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