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第5話

ユウヤの話 待ち合わせ場所に現れた星崎くんの妹は、背が低いわりには存在感のある女の子だった。何より声が高くてよく通る。 恋人らしき朴訥男子と手を繋いでやってきて、僕のことを見つけるなりものすごく嬉しそうに駆け寄ってきた。 「こんばんは!潤兄の恋人ですね!妹の清香です、こちらは奥村貴志くんです」 純朴そうな貴志くんは斜め後ろでぺこりと頭を下げる。 ちょっと困惑しているようにも見えるけど、それは当然だろうな。嫌そうな顔はしていないのが救いだ。 「男の恋人で驚いた?」 試しに聞いたら、目を見開いてから笑顔になった。 「そりゃあまあ…でも歴代の恋人の中で一番感じがいいですよ」 歴代の恋人は女の子ばかりの筈だけどどういう意味だろう、と思っていると 「あ、上から目線みたいですいません」 頭を下げてすぐにこちらを見た。顔は全然違うけど星崎くんと仕草が似ている。 後ろから珍しく待ち合わせ時間ぎりぎりに星崎くんが現われた。今日の生贄くん、なんて心の中で冗談めかしてみたけど、自分が贄になるかもしれないんだよな。 清香ちゃんの指定したレストランは大学生が好きそうなカジュアルフレンチのお店だった。男3人とハイテンションな女の子1人のテーブルはこの時期のレストランではちょっと目立つんじゃないかと思っていたけど、周りは男女2人連ればかりでそれぞれの会話に忙しそうだった。 兄妹がワインについて話し始めたので、貴志くんに院の研究について質問してみたら専攻の文化社会学のフィールドワークで会った人の話や、論文、学校の変な教授の話を滔々と語ってくれた。 朴訥かと思ったけど話にのめり込むとぐいぐい食いついてくる子で、分からない言葉を質問すると真面目に答えてくれる。 『妹は専門バカなので、話がマニアックになったらすいません』と言ってた言葉を思い出した。専門バカかもしれないけど、嫌いじゃない。きちんと話の出来るいい子じゃないか。星崎妹によくお似合いだよ。 トイレに立ったタイミングが偶然一致して、手洗いの所で清香ちゃんに鉢合わせた。 「ね、さっき歴代の恋人って言ってたけどどんな感じの人だったの?」 純粋な好奇心で聞いたつもりなのに、目をくりくりさせて嬉しそうに微笑んだ。気にしてるって思われてるんだろうな。あながち間違いでもないし。 「んー、美人でぱっと見感じのいい人ばかりだったけど…こうあるべきだ、こう振る舞ってほしいっていう要求が高くって、また律義に応える潤兄がそれを助長してた気がします」 「ふうん、清香ちゃんはお気に召さなかったのか」 「うーん、選ぶのは兄なのでそういう訳じゃないんですけど…」 慎重に言葉を選びながら答えてくれる、ああ、こういう所が兄妹だ。 「だから、うちの兄を可愛がってあげてくださいね。妹からのお願いです」 真面目な顔して言うから思わず小さな声で笑ったら、星崎くんがよく見せる『心外です』って言いたげな表情になって、更に笑いが止まらなくなった。 「はい、星崎くんは可愛いし、今も可愛がってるし、これからもいっぱい可愛がるよ」 ひとしきり笑ってからそう答えると、何故か真っ赤になって両手で頬を押さえ、本人なりに小さな声で 「キャー、なんですか、それは!あたしも彼氏に言われたい!いや、むしろ言いたい!」と叫んだ。 「しー、声が大きいよ」 全く、変なところが似てる兄妹だよな。

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