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第6話

星崎潤の話 「潤さんは…印刷会社の営業なんですよね?どんなお仕事なんですか」 貴志くんが、話題を選びながら聞いてきた。 年上の彼女の兄で、男の恋人と一緒にダブルデートなんてそれだけで緊張しているに決まっている。 印刷会社と言ってもウェブサイトやSEOの提案を行ったりするんだよ、とか会社の変な同僚の話しをするとちょっと安心した表情になった。 彼の就職先や、院での研究の話をしていると、話に乗ってくれているようなのに途中からどこかそわそわしている。 「何か、話したい事がある?」 「え?あ、いえ別に…」と言いながらちらっとトイレの方を見る。 「就職の事?清香の事?」 「はっ、あ…の、いえ…」 言い辛そうにしているかた黙って続きを待っていたら、目を合わせないまま唐突に言った。 「僕、卒業したらプロポーズしようかと」 「ああ!そうなの!」 真っ赤になっている様子が微笑ましくてくすぐったい。そんな風にあのマイペースな妹の事を思ってくれる人がいるなんて、感動する。 「それで、あの…」 彼が言葉を続けようとした時、清香とユウヤさんがこちらに歩いてくるのが見えた。人差し指を自分の唇に近づけて言う。 「戻って来るよ」 何を言おうとしていたのかは分からないけど、戸惑っている様な表情には気付かない振りをした。 ******* コースの最後に、一口で食べ終わるようなケーキとコーヒーを飲んで楽しい時間は終わり。店の外に出るとキンと冷えた冬の風が吹いていた。 「ごちそうさまです」 「それじゃ、仲良くね」 清香と貴志くんにそう言って帰ろうとすると、清香に袖を掴まれた。 「お兄ちゃん達も」 妙に力強く言われた。貴志くんは他所を向いている。 ユウヤさんから何か聞いたのか、独自のロジックで妄想を働かせているのか分からないけど、無条件に全肯定するような声色に安心させられる。妹なんだけどな。 「おやすみ、気を付けて」 手を振って二人はじゃれ合いながら去っていった。それを見送りながら自分たちも歩き出そうとした。 「今日は付き合ってくれてありがとうございました。清香と何話してたんですか?」 「んー、色々…さ。ああ、お願いもされたなぁ…」 ユウヤさんは立ち止まったまま目を細めながらこちらをじっと見ている。そういう、何か考えている時の表情を見ると、またこっちの予測できない事を言い出すんじゃないかと期待してしまう。大抵の場合、ちょっと意地悪な事言われるんだけど。 「お願い?」清香が?ユウヤさんに? 首を傾げて聞き返したら、苦笑された。 「星崎くん、家まで我慢できない。ホテル行こうよ」 ユウヤさんは予想外すぎる言葉を吐いて、そのまま腕を掴み雑踏の流れを逆行して歩いて行く。 「え?何を言って…どうしたんですか」 ワインで火照った顔に冷たい空気が当たっているのに、ユウヤさんから伝わる熱のせいで酔いがさめる気がしない。 清香…一体何を話した? 駅に向かう流れはしばらく進むと緩やかになり、ラブホ街を歩く人たちはお互いに別種の動物みたいに無視してすれ違ってゆく。 男同士だと、まぁ、それなりに目立つみたいで横目で見られるけど。 でも、ただでさえ入れるホテルも限られているのにクリスマス前の週末なんて当然空はなく、結局一緒に帰宅した。 玄関の鍵を出すのにもたついている間に後ろから腰を抱かれた。夜遅いとはいえ人に見られたらと思うと流石に焦ってしまう。 「あの…ちょっと待ってください」 「やだ、早くあけて。でないとここでする、我慢できない」 いきなり酔っぱらいみたいな駄々をこねだしてきた。 「何を言ってるんですか!ちゃんと待って…」

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