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第7話
ユウヤの話
冗談を真に受けてか、星崎くんは真っ赤な顔しながら音を立てて鍵を開けた。
焦ってる焦ってる。
いや、冗談というわけでもなく、さっき清香ちゃんに言われたことが小骨のように引っかかって彼の気持ちを確認したいせいかもしれない。
マフラーと髪の間に鼻を埋めて首筋にキスすると「って、ダメですってば…」って小さい声で抵抗する。そういう所が可愛いくって、余計に無理矢理したくなるんだよ。わざと煽るようなしたたかさは君には無さそうだし、自覚もないんだろうな。
単身者用の小さな玄関に男二人で体をねじ込むように入って扉を閉めると、星崎くんが腕の中で体の向きを変えて、僕の頭に手を沿えながら唇を重ねてきた。
靴を脱ぎ散らし、玄関から寝室までの3秒もかからない距離を唇と手を繋いで壁にぶつかりながら歩いて行くと、そう言えば以前も同じような事をしたと思い出した。
コートを着ているから分からないけど、きっと彼も同じくらい僕を欲しがっている。
スイッチが入ったら早い星崎くんの舌が僕をたきつけるように絡まってくる。角度を変える一瞬に短く息をしながらお互いの唾液を混ぜてゆく。
部屋が温まるまで待っていられず、唇が離れた僅かな隙に「お風呂、入ろう」と言うと恥ずかしそうな笑顔を見せてくれた。
ソファーにコートを投げ捨てて風呂場に行き、お湯を張る間に二人で服を脱いでいると笑いが込み上げてきた。
「なんでそんなにがっついてるの?」
「え?それはユウヤさんがちょっかいかけてくるから…」
唇を結んでじっと見つめられた。本当にがっついてるのは僕の方だ。
「それ、その顔が見たくて意地悪したくなる」
「…小学生男子みたいな事言ってどうするんですか?」
悔しそうな表情は苦笑に変わり、彼の手が腰に触れる。
「男は永遠に子供でしょ?」って言うと
「二人とも男です」って突っ込みが返ってきた。
ふと、さっき聞いた『感じのいい』歴代彼女のことを思い出した。
(今これだけ懐いてくれているけれど、彼の気持ちが覚めてた時、僕は引き留められるんだろうか)
脇腹をそっと撫でる指を捕まえて自分の首の後ろに導くと、ちょっと顎を引き唇の位置を見定めるようにしてキスをくれた。
僕らのする事なんて相も変わらずで、見つめあって、抱き合ってキスして、服を脱いで(脱がない時もあるけど)、求め合うだけ。
今も世界中の恋人たちが、うっとりと吐く息で部屋の温度を上げているのだろう。
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