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第9話

ユウヤの話 居間のテーブルにお茶を乗せたお盆を置き、窓の外をぼんやり見ている星崎くんに近づいた。 「雨、よく降ってる」 こちらに背中を向けて、独りごとみたいなぎこちないタメ口が聞こえた。いじらしいなぁ。 服の端から無防備に覗かせているのは、男にしては華奢な首筋と手首。武道の事はよく知らないけど、こうやって見てる限り全然強そうには見えない。 項から視線を落としてゆく。服の下には、滑らかな背中、ぐっと反らした時にきれいな凹凸を見せる肩甲骨、そこを下に辿れば細いけれど筋肉の付いた腰がある。 こんな事なら簡単に思い浮かべられるのに、この人が僕を好きだという事以外何も知らない。 “感じの良い”女の子と並べたらさぞかしお似合いだろうし、そういう子たちが期待する通り王子さまみたいに振る舞って微笑むことが簡単にできる人なんだ。 でも彼は今僕の部屋にいる…じゃあ横に立っている自分は一体何なんだろう。 何度考えても先の明るい答えが見つかる気はしない。ぐるぐる同じところを回るばかりの思考を振り払い、隣に立つ。 星崎くんは一瞬こちらを見てまた窓の外に視線を戻した。 身体の脇に所在なく垂れてる、もしかしたら繋がれるのを待っているかもしれない手に、何も言わずにそっと箱を押し込んだ。 驚いた様子もなく、箱は素直に手の中に納まった。落とさない様に、指が少し動いて保定する。ゆっくりとこちらに振り返ったまま、何も言ってくれない。 固まってる? 言葉が見つからず、暫くそのまま黙っていた。 いたたまれなくなって肘で小突くと、はっとしたように 「プレゼント、ですよね?ありがとう…ございます。あの僕は何も用意してなくって…すいません」 「別に交換するつもりだった訳じゃないし、あげたかっただけなので気にしなくていいよ」 「何だろう、見ていいですか?」 星崎くんの視線はふわふわしていて、笑顔がぎこちない。 僕は何か掛け違えてないだろうか?彼の気持ちを勘違いしてないだろうか? そんな事を考えている時点で、もういろいろ間違えているのかもしれない。

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