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キングが家にやってきた 4
「別に三上さんと特に仲が良かったわけじゃないよ。中三のときに席が隣になったことがあるだけで」
「おまえ、三上の書いた小説をよく読んでただろ。ぼーいずなんとかっていう。よくあんな文字だけの小説を読めるよな。俺は一行で挫折した」
どうやら意味がわからないどころか一行しか読んでいなかったらしい。俺もそうすればよかった、と鳴は今さらながらに後悔した。
「小説はどんなものでも文字だけでしょ。……そっか、三上さんもくるのか――って、うわっ!」
思わず叫び声を上げたのは、後ろから両肩をがしっとつかまれたからだ。
「あ、三上」
「聞いたよ、鳴君。全寮制男子校に入学したんだって? おまけに超絶イケメンの生徒会長とルームメイトな上に、その生徒会長の奴隷をさせられてるんだって?」
耳許で聞こえた不穏な声は正しく菜々のものだった。不穏どころか凄みすら感じさせる。
「私が泣いて喜びそうなネタをどうして黙っているかなあ。私の連絡先、知ってるはずだよね?」
「み、三上さん、久しぶり」
振り向いた視界に映ったのは、美少女といっても過言ではない整った顔立ちの少女だった。
シャンプーのCMに出られそうな光沢のあるストレートロングヘア。長い睫毛に縁取られた大きな瞳。うっすらと桃色がかった頬はニキビやそばかすのひとつもない。スレンダーな長身と相俟って、街を歩いているとナンパやスカウトの声が頻りにかかるらしい。
が、しかし、彼女は男女の恋愛事に興味がなければ、芸能活動にも興味がない。興味があるのはただひとつ。男男の恋愛模様のみなのだ。
「久しぶりだね、鳴君。さあ、今日は色々と話を聞かせてもらうよ。あ、さっちゃん、綾瀬、おはよう」
さっちゃんというのは皐月の綽名だ。
「鳴君の話、教えてくれてありがとうね。おかげで今日はBがLする美味しいネタがたっぷり聞けそうだよ」
「おはよう、菜々ちゃん。よくわからないけどどういたしまして」
「おまえら相変わらず仲が良いな-」
陽人が呆れた表情で鳴と菜々をながめると、菜々の双眸が鋭く光った。
「……久々に会った受けと女の友人。親しげに会話するふたりをながめて嫉妬する攻め。定番ネタもリアルで拝むと神々しさすら感じさせる……」
菜々は恭しい表情で鳴たちを拝んだ。地蔵じゃないんだからやめて欲しい。だいたい陽人の態度のどこに嫉妬の要素があったというのだ。ただ呆れていただけじゃないか。
「夜は嫉妬からのお仕置きプレイが鉄板だよね、鳴君、綾瀬」
「相変わらず三上はわけわけんねーな。日本語しゃべってるように聞こえないぞ。腹も減ったしそろそろ店にいこうぜ。他の奴らは店に直接いくって」
「そうだね。そこでたっぷり話を聞かせてもらおうかな。鳴君、いこう」
菜々は鳴の腕をつかむと先に立って歩き出した。
なんだか死刑執行台に連行される気分だ。鳴はすでにげっそりしながら、よろめく足取りで菜々に引っ張られるままに歩いていった。
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