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キングが家にやってきた 6

 慌ててスマートフォンを取り出すと、ディスプレイに雪生の名前が浮かんでいた。  鳴は思わず舌打ちしそうになった。どうしてこのタイミングで電話なんかしてくるのか。鳴に対する嫌がらせとしか思えない。 (電話してくるなよ! 空気を読め、空気を!)  この場にいない相手に心で毒づく。  鳴は隣を歩く少女に目を向けた。菜々がすぐ隣にいるのに、電話とはいえ雪生と会話なんてしたくない。どんなあらぬ妄想されるのか、考えただけで胃がやつれてしまいそうだ。 「どうして電話に出ないの? あ、ひょっとして電話の相手、噂の生徒会長?」  菜々は瞳を輝かせながら鳴のスマートフォンをのぞきこんできた。 「やっぱり。鳴君、私に遠慮なんかしなくていいから電話に出てあげなよ。ふたりの会話の邪魔をするような無粋な真似はしないから。ちょっと隣で聞き耳を立てるだけだから」  それが嫌だから電話に出たくないんだ、という言葉を呑みこんで、鳴はやむなく通話ボタンをタップした。 「……もしも――」 『遅い。俺が電話したらさっさと出ろ』  耳許にしなる鞭のような声が飛びこんできた。 「……あのー、俺に用でもあった? ちょっといま忙しいんだけど。用がないなら電話切るよ」 『おまえ、まだ渋谷か?』 「え、ああ、そうだけど」  それがどうした、と思って答えると、 『ちょうど寮に帰るところだから、ついでに拾っていってやる。今どのあたりだ?』 『え――』  なんだってこんなときに限ってらしくもなく親切なのか。親切の振りをした嫌がらせなんじゃないかと疑ってしまう。 「あー、ご親切にどーもありがと。でも、電車で帰るからいいよ。じゃあ、また後で」  鳴は言いたいことだけ言うと、さっさと電話を切った。  せっかくの親切を無下にするのは申し訳ないが、雪生と菜々を会わせるわけにはいかない。ふたりを会わせようものなら菜々の妄想はますます手がつけられなくなるはずだ。 「ちょっと鳴君! じゃあまた後で、じゃないだろ! 今のって鳴君を迎えにいくっていう電話だったんだろ。どうして断ったりするんだよ。この機会に生徒会長の顔を見てみたかったのにさ。そりゃあ、いくらでも妄想はできるけど、リアルを知ってると妄想がより捗るじゃない」  菜々は子供みたいに唇を尖らせて鳴を睨んだ。見た目だけなら美少女なのに、なにがどうして男と男の恋愛を妄想せずにいられない体質になってしまったのか。前世の業だろうか。 「いやー、まあ、あまり甘えるのもどうかなって」  雪生と菜々を会わせたくなかったから断ったんだ、と正直に言うわけにもいかず、鳴は曖昧に笑って誤魔化した。 「電話かけ直して迎えにきてもらいなよ。照れてないでほらほらほらほら!」 「いや、まったくもって照れてないから。それに、今日の俺は電車に乗りたい気分なんだ。がたんごとん、がたんごとん、楽しいなー」 「えっ? 今日は生徒会長よりも電車に乗りたい気分? へー、鳴君、騎乗位派なんだ。心の創作手帳にメモっとくね」 「違います。メモらないでください」

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