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キングが家にやってきた 13

 次に雪生が目を留めたのは勉強机だった。勉強机にそっと右手を置くと、すぐ横にある窓に視線を向ける。 「おまえは高校に入学するまで、ずっとここで暮らしてきたんだな」 「え? あ、うん、まあ」  心臓がドクッと落ち着きのない音を立てた。雪生はただの事実を口にしたに過ぎない。それなのに心がもぞもぞするのは、雪生の口調が妙にしみじみしていたからだ。  愛おしげと言ってもいいほどに。 (いやいやいやいや! そんなわけないでしょ!)  鳴は慌てて脳内で否定した。おかしなことを思ってしまった己が恥ずかしい。思い上がりにもほどがある。 「きょ、今日のパーティーはどうだったの? どっかの会社のパーティーだったんでしょ」 「ああ、カミツレの創立三十周年の記念パーティーだ。まあ、普通のパーティーだった」  雪生は鳴の動揺に気づいていないらしく、机の上に視線を落としている。  カミツレというのは日本人なら知らない者のいない大手製菓メーカーだ。鳴もカミツレの菓子はしょっちゅう食べている。 「へー、そーゆーのに雪生も呼ばれたりするんだ。お偉いさんのおじさんばっかりかと思ってた」 「そんなこともない。アイドルグループやアーティスト、モデルなんかもきていたぞ。政治家の姿も多かったけどな」 「アイドルグループ!? ひょっとしてマジカルガールズ!?」  マジカルガールズというのはカミツレのCMに出演中の、今をときめく女性五人組のアイドルユニットだ。 「ああ、そんな感じの名前だったな」 「サインは!? サインはもらったの!?」 「もらっていない。ずいぶん鼻息が荒いけど、彼女たちのファンなのか?」 「いや、別にファンってわけじゃないけど……。世間で大人気のアイドルだから、サインとか写真とかあるなら見てみたいなーって」  まあ、この浮世離れした少年がアイドルのサインをありがたがってもらうはずがなかった。今の口振りだとマジカルガールズ自体を知らなかったみたいだし。 「写真は撮った」 「えっ!? 見せて見せて!」 「俺は持っていない。俺が彼女たちをじゃなく、彼女たちが俺の写真を撮ったからな」 「へ……」  鳴は呆れた気持ちを隠さずに雪生を見つめた。  確かに雪生はそこいらの芸能人に負けないくらいの美形だが、今をときめくアイドルグループに写真をお願いされるなんて。  一体なんなのだ、この少年は。いや、世界に名高い大企業SAKURAグループの御曹司か。 「なんだその目は」 「……いや、なんていうかさ」  雪生はアイドルや政治家の招かれるパーティーに呼ばれる立場にあるんだな。鳴は今更のように思った。  いつも一緒にいるから忘れてしまいがちだが、雪生は庶民の鳴とは別世界の住人なのだ。雪生が卒業したらもう関わり合いになることもないだろう。  そう思うと少し、ほんの少しだけだが淋しかった。

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