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キングが家にやってきた 16

「雪生、ゲームとかしたことある?」  食事が終わり、風呂も終わると、鳴はテレビの下にしまってあったゲーム機をいそいそと取り出した。十二才にして大学に入学した雪生のことだ。勉強に明け暮れていてゲームなんてしたことがないかもしれない。  鳴が雪生に勝つチャンスだ。  たかがゲームとはいえ、奴隷の鳴に敗北したらさぞかし悔しがるに違いない。雪生が悔しがる姿を想像しただけで、口許がにまにま笑いそうになる。  日ごろの恨みは富士山並みに積もり積もっているが、雪生をぎゃふんと言わせられたら、富士山が高尾山になるかもしれない。 「ゲーム? そんなことをしている時間はないぞ。今から十一時まで学習時間だ」 「え? いや、ここ寮じゃないんだから学習時間なんて――」 「なにを言ってるんだ。学年で十位以内に入るって、入学した日からずっとがんばってきたじゃないか」  いやいや、それあんたが俺に命じたことでしょ。鳴は心の中で激しくツッコんだ。 「学年で十位以内?」  訊き返したのはリビングのソファーに座ってくつろいでいた両親だ。雪生は微笑を浮かべてうなずいた。 「学年で十位以内に入りたいから勉強を見てくれと頼まれたんです」 「ちょっと雪生! なにを勝手な――」 「鳴、おまえがんばっているんだな」  父親は感心した口振りだった。両親に『うちの子、思っていたよりもずっと立派だったんだ』という目で見つめられてしまい、鳴は押し黙るしかなかった。 「ええ、毎朝毎晩、必死で勉強していますよ。僕も鳴君の熱心さにはいつも感心させられています」  雪生は優雅に微笑んだ。いつもの綺麗だけどうさん臭い笑顔。笑顔の仮面をひっつかんでバリッとはがしてやりたい。  恨みの山は低くなるどころか、ますます高くなってしまった。この調子では富士山がエベレストと化すのも遠い未来の話じゃないかもしれない。 「……雪生ってほんとにほんとにアレだよね。外面が良いっていうか、俺に対する態度がひどすぎるっていうか」  部屋でふたりきりになると、鳴は恨みがましい目つきで雪生を睨んだ。 「てきとーな嘘吐いて母さんたちをよろこばせるのやめてくれる? これで十位以内に入れなかったらがっかりさせちゃうでしょ」 「おまえみたいなタイプは少し追いつめられるくらいでちょうどいいんだ。春夏冬に受かるだけの実力はあるんだから、この俺が勉強を見てやれば十位以内に入れないはずがない。ご両親をがっかりさせたくなかったら、死に物狂いでがんばるんだな」  つまり鳴にもっとやる気を出させるために嘘を吐いた、ということか。夕食抜きというだけでもかなりハードな罰なのに、この上まだ人を痛めつけるつもりなのか。 「……雪生って絶対にドSだよね」 「これほど親切にしてやってるのにドS? 俺がドSならおまえは恩知らずのドマヌケだな」 「ドマヌケなんて言葉この世にないし。っていうかさ、俺、教科書もノートも持ってきてないんだけど」 「安心しろ。俺が持ってきてやった。この俺に教科書を運ぶという重労働をさせたんだ。それを踏まえてしっかり勉強しろ」  雪生は冷ややかに微笑むと、スーツケースから鳴の教科書とノートを取り出して机に置いた。  どうやらせっかくの四連休だというのに勉強は免れないらしい。溜息を吐いて、教科書を開く。

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