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キングが家にやってきた 17
鳴は聞き慣れた毒舌を浴びながら、寮にいるときと同じように予習、復習に励んだ。
実家にいるときくらい休ませてくれてもいいじゃないか。そう思ったが、雪生相手にいくら訴えたところで無駄だとわかっている。
「……よし、今日はこれで終わりだ。今月の終わりには中間テストだからな。せいぜい十位以内に入るように努力しろ。おまえが十位以内に入れなくても俺はちっとも困らないけど、おまえは色々と困るだろうからな」
鳴の傍らに立って勉強をみていた雪生は、鳴を見下ろしながら言った。
色々と困る原因を作ってくれた張本人に言われると非常に腹立たしいものがある。
「雪生が十位以内に入れなかったときの罰を取り下げてくれるなら、俺だってちっとも困らないんですけど?」
「あのくらいの罰がないと、おまえは本気を出さないだろ。ああ、そうだ。おまえの初恋の話だけど」
鳴はうんざりした思いを隠さずに雪生を見上げた。
「その話はもういいって」
「子供のころの写真に写っている、という可能性はないのか? アルバムを見てみたらどうだ」
「――雪生、偶には良いこというじゃない」
雪生の言う通りだ。子供のころの知り合いならアルバムに収まっている可能性は充分にある。どうして今まで思いつかなかったんだろう。
「口の悪い奴だな。偶には、は余計だ」
「雪生の口の悪さが移ったんでしょ」
鳴は口答えしながらも浮き浮きと椅子から立ち上がった。ずっと気になっていた美少女の正体がようやくわかるかもしれない。
母親に頼んで子供のころのアルバムを出してもらった鳴は、今にもスキップしそうな足取りで部屋にもどった。
ベッドに腰かけてアルバムを開くと、雪生は隣に腰を下ろしてアルバムをのぞきこんできた。
子供のころの写真を人に見られるのは恥ずかしいものがある。かといってアルバムを隠すのは自意識過剰というものだろう。
「おまえはこの世に生まれたときからマヌケ面だったんだな」
雪生は感心した口振りで、生後一日目の鳴の写真を指差した。写真の中の鳴は小さな手足を肌着から出してすやすやと眠っている。
「……雪生ってほんっっっっとに失礼な人だね! 生まれたばかりの赤ちゃんを見てマヌケとか言う!? いつか雪生がその口の悪さで自滅するのを、俺は心の底から願ってるよ」
「安心しろ。おまえ以外が相手ならちゃんと考えて発言する」
「俺が相手のときでもちゃんと考えて発言して欲しいんだけど……。えっと、その子に会ったのはたぶん小学校に入学する前後くらいだと思うんだよね」
鳴はそのころあたりのページに飛ばそうとしたが、雪生がそれを押しとどめてきた。
「たいした量じゃないんだ。一ページずつ見ていけばいいだろ」
鳴からアルバムを奪い取ってゆっくりとページをめくる。時間を無駄にするのを嫌がるタイプだと思っていたのに。
(まあ、いっか。一ページずつ見ていったところでたいした量じゃないし)
鳴は雪生がページをめくるのに任せた。
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