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キングが家にやってきた 20

 鳴はベッドの中で目を覚ますと、のろのろと身体を起こした。  頭がどんよりと重い。頭蓋骨の中に鉛の粒がびっしりつまっているような感覚だ。昨夜、鳴は明け方近くまで眠れなかった。頭が重いのは寝不足が原因だ。  目で雪生を探したが、雪生の姿はどこにもない。布団はきっちり畳まれている。どうやら先に起きて部屋を出たようだ。  布団をちゃんと畳むなんて意外と礼儀正しいんだな、と思いながら、鳴はベッドから降りた。  頭が重い。頭だけじゃなく心まで重い。重いというか言葉にしがたい奇妙な感覚が渦巻いている。  昨夜、ベッドに入って横になったときのこと。あるひとつの考えが天啓のごとく鳴の脳裏に閃いた。空が白み始めるころまで眠れなかったのはそのせいだ。  ひょっとしたら雪生は鳴の親友――綾瀬陽人が好きなのかもしれない。  鳴のアルバムを丁寧に見ていったのは陽人の写真を見逃すまいとしてなんじゃないのか。鳴と陽人の写真を不機嫌そうに見つめていたのは、陽人ではなく鳴に嫉妬したからなんじゃないのか。  そう思ったらすべて納得がいってしまった。  いや、でも雪生は陽人と言葉さえ交わしていない。それなのに恋に落ちたりするだろうか。惚れっぽいタイプにはとても見えないし、だいたい陽人は男だ。ゲイでもなんでもない男が男に恋するなんて、そんなBLじゃないんだから―― 「……この間のBL小説に影響された、とか?」  ありえない話じゃない。雪生には妙に素直なところがある。 「……なんか余計に頭が痛くなってきた」  もしもほんとうに雪生が陽人を好きになったのなら、いったいこれからどうすればいいんだろう。  雪生の奴隷として応援するべきなのか、それとも陽人の友人として諦めさせるべきなのか。  いくら雪生が超のつく美形で、超のつくお金持ちとはいえ、陽人が男とつき合うとは思えない。過去、陽人がつき合ってきたのは当たり前だがすべて女子だ。  野球部のエースの陽人は女子の人気が高く、告白されるのは日常的なイベントだった。基本的に陽人はつき合って欲しいと言われたら断らない。あっさり受け入れて、後日、あっさり振られるのがいつものパターンだ。  つきあい始めるまではいいが、根っからの野球小僧の陽人は放課後も休日も野球に明け暮れている。デートどころかメッセージのひとつもろくに返さないようでは、彼女が呆れて離れていくのも無理はない。 「女って面倒くさいよなー。どうでもいいことをいちいちスマホで送ってくるし、野球の練習見ててもつまんないとかいうし、服一枚買うのに一時間悩むし」  七人目の彼女に振られた陽人は、心底から面倒くさそうに呟いた。  あれは確か中学三年の初夏だった。 「俺、もう女はいいや。彼女なんていなくても鳴がいればそれで。おまえと遊んでるほうが気楽で楽しいもん」  思えばあのときの陽人の言葉で、腐女子代表の三上菜々は人気者陽人×平凡鳴に目覚めてしまったのだ。  あのとき、あの日の陽人の科白さえなかったら腐女子の餌食にならずに済んだかもしれない。そう思うと脳天気な陽人が少しだけ憎くなる。
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