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キングが家にやってきた 22
「……あのさ、雪生」
どうやって切り出そうか。『雪生って陽人のことが好きなの? ラブなの? フォーリンラブしたの?』などと訊いたところで素直に答えてくれるとは思えない。
「どうかしたのか?」
鳴がためらっていると、雪生は不思議そうな目を向けてきた。
だいたい雪生が陽人にひと目ぼれした、というのが事実だとして、それを知ったところでどうなるというのか。ひたすら気まずくなるだけじゃないのか。
何も気づかなかった振りをしていればいい。冗談みたいな恋なんてきっと泡沫のように呆気なく消えるはずだ。
自分で自分に言い聞かせてみたが、どうにも気になってしかたがない。雪生の気持ちをはっきり確かめたい。そうしないとこのそわそわじりじりした気持ちは消えてくれそうにない。
「いや、あの、今日もいい天気だなーって」
「今日は薄曇りだ」
「……あ、そう」
いくら気になっているからと言って、家族の前で『雪生って好きな人いるの? それってまさか俺の親友の綾瀬陽人だったりする?』などと訊くわけにもいかない。
いつどうやって切り出そう。やっぱり眠る前だろうか。思いきって修学旅行のノリで訊いてみようか。
『なあ、おまえ好きな子いる?』みたいな感じで……いや、雪生相手にそんな馴れ馴れしいノリは不可能だ。
「あの、今日は何時くらいに帰ってくるの?」
「今日も帰りは昨日くらいの時間になる。何かあるのか?」
「え、いや、あ、ほら、おにぎり! 唐揚げのおにぎりを作らないとって」
うっかり忘れていたが、雪生を実家へ招いたのは雪生がかねてから気にしていた唐揚げのおにぎりを作って食す、という目的もあるのだ。
「唐揚げのおにぎり?」
母親の成美が湯呑みを差し出しながら訊いてきた。
「ほら、コンビニとかおにぎり専門店で売ってるでしょ。雪生が食べてみたいっていうから、連休の間に作ってあげようと思って」
「おにぎり専門店?」
雪生の双眸が鋭く光った、ような気がした。
「この世の中にはおにぎりの専門店があるのか? ほんとうにおにぎりしか売っていないのか?」
クールな雪生らしくもなく勢い込んで訊いてくる。なんだってこの金持ちの息子はおにぎりのこととなると妙に熱くなるのか。
「おにぎりだけ、ってことはないかもしれないけど、おにぎりが中心だよ。ケーキ屋さんみたいにショーケースがあって、そこにいろんなおにぎりがずらっと並んでるの。注文するとその場で握ってくれるお店もあるけど」
「それはどこにあるんだ」
「このあたりなら小結屋が美味しいわよ」
成美が横から言った。
「雪生君はおにぎりが好きなの?」
「ええ、このごろはいつも夜食で食べています。鳴君が握ってくれるんです」
雪生は極上の笑みを浮かべた。春夏冬の生徒だったら歓喜のあまり卒倒していたかもしれないが、成美は意外そうな目を息子に向けただけだった。
「鳴がおにぎりを? 少しは料理に興味を持ったのかしら。家じゃ目玉焼きひとつ焼いたことがないのに」
「おにぎりくらい、高校に入る前だって偶に握ってたよ。夜中のお腹が空いたときとか、小腹が減ったときとか。あとインスタントラーメンくらいは作ってたし」
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