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キングが家にやってきた 24

 その日の夕食は滞りなく終了した。本日の献立は豚の生姜焼きだったが、雪生は文句ひとつ言わずに完食した。文句どころか何度となく褒め言葉を口にして、成美を大いに喜ばせた。  大企業のご子息というのは、若いうちから会話術を教え込まれるものなんだろうか。高校生にして祖父の歳ほどの政治家と会話する機会も多そうだから、それくらいはしているかもしれない。  問題があったとすれば、雪生が今日もまた手土産を持参したことだ。 「子供がそんな気を遣わないの。こうやって遊びにきてくれただけで嬉しいんだから」  成美は、高校生にしては行き過ぎた雪生の気遣いをやんわりと叱った。  学園では教師でさえ雪生には注意ひとつできないのに。女は、いや、母は強しだ。まあ、至って優等生の雪生なので、注意する必要がないというのもあるだろうが。  風呂を済ませると、昨日同様、学習タイムに突入した。むろん鳴に拒否権はない。  鳴は、勉強が終わったら陽人について訊いてみるつもりだった。 (でも、どうやって切り出そう。できるだけさりげなく、俺が雪生の気持ちに気づいてるってわからないように訊かないと) 「おい」 (それでいて雪生の気持ちははっきりわかるような訊ねかた……ってそんなのあるか?) 「おい」 「いててててててて! いきなり何するんだよ!」  頬をむぎゅっと抓られて、鳴はひりつく頬を手で押さえながら雪生を睨んだ。が、返ってきたのは鳴以上に不機嫌そうな眼差しだった。 「この俺に勉強を教えてもらっておきながら、考え事とはいい度胸だな」  勉強を教えてくれなんて頼んだ覚えはない、という文句はごくんと呑みこむ。口にしようものなら手ひどい報復を受けるのは目に見えている。 「鳴、おまえいま勉強を教えてくれと頼んだ覚えはない、と思っただろ」 「えっ!? まっ、まさか心を読んだ!?」 「ほんとうに思ったんだな」  雪生は氷の女王のごとき目つきで鳴を睨むと、今度は両頬をねじるように抓ってきた。 「いだだだだだ! ごめん、ごめんなさい! 謝るからほっぺを千切らないでー!」  鳴が半泣きで叫ぶと、雪生の指はあっさり離れた。 「いったい何を考えてたんだ」 「えっ!? い、いやそんなたいしたことは」 「どうしてそんなに焦ってるんだ。いかがわしいことでも考えてたのか?」  雪生の目つきがますます冷ややかになる。  この際だ。思いきって訊いてしまおう。上手い訊ねかたなんて思いつきそうにないし、もう一ヶ月近く寝食を共にしているのだ。恋愛話のひとつやふたつしたっておかしくないはずだ。 「雪生、ひょっとして好きな人できた?」 「……は?」  鳴は肩をびくっと揺らした。一瞬にして雪生の顔つきが変わり、阿修羅さながらの表情になった。 「な、なんでそんないきなりキレ気味なの」 「この俺がいったいどこの誰に恋をしているって?」  どうやら雪生の地雷を思いっきり踏み抜いてしまったらしい。

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