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キングが家にやってきた 26
(う……うん……?)
鳴は奇妙な寝苦しさを感じて目を覚ました。
「……――ひっ!?」
ぎょっとしてバネ仕掛けのように飛び起きる。文字通り目と鼻の先に人の顔があったからだ。
「ゆっ、雪生……!? な、なにしてんの、人のベッドで」
どういうわけなのか雪生は鳴の隣に寝そべっていた。それだけなら寝ぼけて寝床を間違えたと思うだけだが、雪生は目をぱっちりと見開き、鳴の寝顔を見つめていたのだ。
奇妙な寝苦しさは雪生の視線が原因だったようだ。
「なんだ起きたのか」
雪生は優雅な動作で身体を起こした。人のベッドに潜り込んでおきながら、その顔には気まずさの欠片もない。
「なんだ起きたのか、じゃないでしょ。人のベッドでなにしてたんだよ」
「おまえの寝顔を見ていた」
「えっ……?」
心臓が少女マンガのヒロインさながらにトクン……と跳ねた。
(俺の寝顔を見てたって……いや、状況的にわかってはいたけど……。いったいなんだって俺の寝顔なんか……)
寝顔を見つめるなんて、まるで恋人同士みたいな――
今度は心臓がホラー映画さながらにドクンッと勢いよく跳ねた。
次の瞬間、はーっと世にも重々しい溜息が聞こえた。溜息の主は雪生だ。思わず目を向けると、この世の絶望を垣間見てしまった、といわんばかりの暗い表情があった。
「…………」
鳴は能面と化した。
(人の寝顔で絶望するって、失礼にもほどがない!? ていうか、いったい俺どんな顔で寝てたの……)
「……雪生、なにその仏滅と葬式と死刑宣告が同時に訪れたみたいな顔は」
「……人生において最大級の災厄に見舞われたことが発覚した。最低最悪の心境だ」
「災厄?」
どうやら鳴の寝顔のことではなさそうだ。いくらなんでも寝顔を災厄とまで言われる筋合いはない。
「災厄ってなんなの」
雪生の返事はない。
この自信に満ち溢れた少年を暗澹たる気持ちにさせた出来事とは果たしてなんなのか。
「ひょっとしてこの間言ってた仇敵と関係あるの?」
ふっと思い出したので訊いてみたら、怒りに満ちた瞳で睨まれてしまった。思わず身が竦む。
「な、なに? なんか悪いことでも訊いた?」
「……ときどき実はおまえはすべてわかっていて、俺を弄んで楽しんでいるんじゃないのかと疑いたくなる」
言っている意味がまるでわからない。
桜雪生を弄べるような人間は、地球上を隅から隅まで探してもいるとは思えない。まして平々凡々の鑑とも言うべき鳴にできるはずがない。
「言ってる意味がわかんないんだけど……」
「問題集の採点をしておいた。まだまだケアレスミスが多い。つまらないミスはなくすように努力しろ」
話題の切り替え方が雑すぎる。
意外と不器用な面があるのかもしれない。
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