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キスの嵐 4

「如月、今のはどう考えてもおまえが悪いぞ」  窘める口調で割って入ったのは太陽だ。そういえば太陽がすぐ隣にいたんだった。  太陽は男らしい顔を厳しく引き締めて遊理を見つめている。 「他人の家族を馬鹿にするのはキングにふさわしい品のある行為とはとても言えないな。相馬君――」 「えっ、な、なんでしょう」 「如月が素直に謝ったらそれで許してやってくれないかな?」 「いやっ! そ、そんなめっそうもない! 謝ってもらうなんてあのそんな」 「如月、相馬君もああ言ってるんだ。素直に謝るのもキングとしての度量のうちだと思うよ?」 (いや、俺なにも言ってないんですけど――)  遊理は歯ぎしりが聞こえてきそうな表情で鳴を睨みつけている。きっと脳内では鳴の藁人形に五寸釘を打ちつけているに違いない。腹がきりきりしてきたのはさっそく呪いの効果が出たせいだろうか。 「……用事を思い出した。少し出てくる」  美貌のキングはふいっと顔を背けると生徒会室を出ていってしまった。  途端に生徒会室の空気がホッとしたように緩む。生徒会室の空気をうっかり悪くしてしまった。鳴は他の奴隷たちに「お騒がせしてすみません」と頭をぺこぺこ下げた。 「まったく困った奴だな……。相馬君、ごめんね。如月にかわって謝っておくよ」  太陽に頭を下げられて、鳴は大いに焦った。 「いやっ、そんな一ノ瀬先輩が謝らないでくださいよ! 俺もムキになって反論しちゃったから、俺だって悪いんです」 「如月の奴、四連休の間ずっと桜に着信拒否されてたんだよ。電話もメールもメッセージアプリも。連休中は生徒会から離れたいから、っていう理由で。それもあっての八つ当たりだから気にしなくていいよ」  そうだったのか。遊理のことだから四連休ともなると頻繁に電話やらメッセージやらしてきそうではあるが、なにもそこまで遮断しなくてもよさそうなものなのに。 「……あの、如月先輩ってひょっとして極道の息子さんだったりするんですか?」 「え? 極道って――ひょっとして相馬君、如月のご両親についてなにも知らないの?」 「知りません。ついでにいうと一ノ瀬先輩や乙丸先輩のご両親がなにをしているのかも知りません」  鳴が明言すると、太陽は呆気にとられた表情になった。が、それは一瞬のことで、すぐに明るい声で笑い出した。 「あ、あの、一ノ瀬先輩……?」 「そうだよね。桜のバックボーンさえ俺に聞くまで知らなかったような子だもんね、相馬君は。いや、ほんと大物だよ。いざとなると相手が誰でも果敢に立ち向かっていくところも含めてね」 「いやいやいや、俺の座右の銘は三十六計逃げるにしかずですよ」 「如月はね、父親がイマジネというアパレルメーカーの経営者で、母親はパリコレにも携わっている有名なデザイナーなんだよ」 「へー」  だからファッションショーの担当は遊理なのか、と鳴はひとりで納得した。  ドスを持った強面のお兄さんに追いかけられる心配はなさそうだ。とりあえずひと安心だ。

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