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キスの嵐 7
「桜、相馬君の勇姿を見てみたくないか?」
太陽はにっこり微笑みながらテーブルの上のスマホを取り上げた。
「実はさっきの一部始終をこれで撮っておいたんだよね」
「えっ!? ちょ、ちょっと勝手に人を撮らないでくださいよ!」
いったいいつの間に撮ったのか。油断も隙もないとはまさに太陽のことだ。撮られて困るような場面でもないが、勝手に撮影されるのは気持ちのいいものじゃない。
「桜、いくらで買う?」
「言い値で買おう」
「じゃあ、十万で」
「わかった」
鳴の文句を余所にふたりは勝手に交渉を進めていく。雪生は横長の財布から一万円札をびらっと取り出した。
「ちょ、ちょっと待った! 一ノ瀬先輩、俺をつかって勝手に商売しないでください! 雪生も素直に払わないの!」
「儲けの半分は相馬君にあげるよ」
「え……っ?」
十万の半分ということは五万。庶民の鳴にとってはかなりの大金だ。一瞬、心がぐらついたが、
「だ、だめです! いま撮った動画は速やかに消してください!」
「俺に見られたら困るのか?」
面白くないと言わんばかりの口調。雪生へ目を向けると、不機嫌そのものの表情で鳴を睨めつけてきた。
見られたところで鳴は困らないのだが、遊理は雪生にだけはさっきのやりとりを見られたくないはずだ。雪生は己の奴隷が悪し様に言われるのを好まない。遊理もそれをわかっているから、雪生が席を外した隙を狙って絡んできたのだ。
「困るとか困らないとかの問題じゃないよ。盗撮動画なんかにお金を出しちゃダメって言ってるの。盗撮を助長するような真似はキングとしてどうかと思うよ」
「いや、俺は堂々とふたりを撮ってたから盗撮じゃないよ。気づかなかった相馬君と如月が鈍いだけで」
「人に断りもなく撮ったら盗撮です! おまけにそれで金儲けとか言語道断もいいところです。動画は速やかに消してください。そうすれば通報はしないでおきますから」
鳴は太陽の鼻先にびしっと人差し指を突きつけた。太陽は面白い生き物を見るような眼差しで鳴を見つめてきたが、
「相馬君は優しいね。如月のためを思ってそう言ってあげてるんでしょ。自分のことを嫌ってる相手なんて気にしなくてもよさそうなものなのに」
人好きのする笑みを浮かべてそう言った。
「いや、別にそういうわけじゃ――」
「一ノ瀬、俺のわからない話を俺の奴隷と勝手にするな」
雪生に視線をもどすと、ますます不機嫌そうな表情になっている。これ以上、怒らせると後が怖そうだが、だからといって盗撮動画購入の許可を出すわけにもいかない。
「いいじゃないか、俺と相馬君が仲良くしたって。同じ生徒会の仲間なんだから。ねえ?」
「えっ!? はい、まあ……」
「鳴、俺以外の人間の言うことに『はい』や『イエス』で答えるな」
「いや、そんな無茶苦茶な……」
雪生は敵に向けるような眼差しで太陽を睨んでいる。自分の奴隷とちょっと話をしたくらいでそんなに怒らなくてもよさそうなのに。
「えっと、じゃあ、俺はアンケート作りを終わらせちゃいますね。ほら、雪生もさっさと仕事に取りかかりなよ。ああ、忙しい忙しい」
鳴は雪生をどうにか椅子に座らせると、作りかけだったアンケート用紙を完成させるためにパソコンに向かった。
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