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借金よ、こんにちは 1

「そういえば、相馬君が奴隷に選ばれた理由、わかったの?」  雪生に頼まれた書類をパソコンで作成していると、斜めとなりに座っている太陽が訊いてきた。  例によって雪生は不在だ。遊理は今日は家の用事があるとかで生徒会に参加していない。翼はといえば先ほどから太陽の隣で一心不乱になにやらノートに書き綴っていて、太陽が鳴に話しかけても見ようともしない。 「えっ!?」  鳴は思わず声を上げた。  奴隷に選ばれた理由を探していたことをすっかり――それはもう完璧なまでにすっかり忘れていたからだ。そうだ、雪生が鳴を奴隷に選んだ理由がわかれば奴隷から解放しれくれる、という約束をしていたんだった。  奴隷になったばかりのころは躍起になって理由を探したが、いつの間にかそんな約束は忘却の彼方へ追いやられてしまっていた。 「そのリアクション、まさかすーっかり忘れてたとか?」 「いや、その、えっと……まあ、そんなところです」  あはははは、と笑って誤魔化すと、太陽は興味深そうに鳴をしげしげと見つめてきた。 「忘れていたってことは桜の奴隷をしているのが嫌じゃなくなったってことだよね。よかったよ。相馬君を奴隷から解放しないといけなくなったら、桜がどれほど落ちこむかわかったものじゃないからね」 「いや、そんなことくらいであの人は落ちこんだりしないと思いますけど。俺ひとりいなくなっても、生徒会長なら楽々と仕事をこなすでしょうし」  じっさい鳴に宛がわれているのはほとんど雑務ばかりだ。鳴でなくてはこなせないような仕事はひとつもない。 「仕事はともかく私生活がさ、淋しくなるでしょ」  俺がいなくたってあの人は淋しがったりしませんよ、と反射的に言いかけたが――  ゴールデンウィーク前、鳴が実家に帰ることを告げると、雪生は子供のように拗ねて駄々をこねた。その結果、四連休を雪生と共に実家で過ごすことになったのだ。 「それはまあ……ちょっとは淋しがるかもしれません、けど……って、あ、そうだ!」  鳴がいきなり大声を上げたため、それぞれの仕事に没頭していた奴隷の視線が一斉に向いた。翼だけが顔を上げもせずにノートにしたため続けている。 「あ、ご、ごめんなさい! なんでもないんでどうぞお仕事の続きにもどってくださーい」  あはははは、とふたたび笑って誤魔化してから太陽に向き直る。 「……あの、一ノ瀬先輩、ひょっとして雪生の好きな人が誰なのか知ってます?」 「え?」  鳴が小声で訊ねると、太陽は両目を見開いた。 「――えーっと、桜の好きな人が気になるの?」 「えっ、だって、あの人、俺のことはけっこう色々知ってるのに、自分のことは訊いてもはぐらかしてばかりでろくに教えてくれないから……。なんだか悔しいっていうか」 「桜に好きな人がいるのは知ってるんだ」  ということは雪生の好きな人がいることを太陽も知っているのだ。 「あの人の態度から薄々と……。で、誰なんですか?」  鳴は勢い込んで訊いたが、返ってきたのは内心の読めない微笑だった。 「そういうことは本人に訊いたほうがいいと思うよ」 「訊きましたよ。でも、答えてくれないどころか逆ギレされて……」  昨日のディープにもほどがあるキスをうっかり思い出してしまい、頬がカッと熱くなる。  いけない、いけない。余計なことを思い出してしまっては。だいたいあんなことは日常茶飯事といってもいい。いちいち頬に血を昇らせるほどのことじゃない。  「まあ、それはそうだろうねえ……」  太陽は妙にしみじみとした口調で呟いた。 「あの、で、誰なんですか……?」  ようやく雪生が頑なに被っている秘密のベールが暴かれる。鳴は胸をドキドキさせながら太陽の答えを待った。が―― 「それを俺の口から言っちゃうのはちょーっと悪趣味かな? やっぱりキング仲間を裏切るような真似はちょっとね」  にこやかな笑顔で華麗に躱されてしまった。  キングの中でもっとも気さくな太陽だったが、しょせんキングはキングの味方らしい。鳴はがっくりと肩を落とした。

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