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借金よ、こんにちは 5
「というわけだ、おとなしくスーツをあつらえてもらえ。高梨さんは一流のテーラーだからな。きっとおまえでもかろうじて似合うスーツを仕立ててくれるはずだ」
『おまえでも』とは『かろうじて』とはどういう意味だ、と問いただしたかったが、スーツを着こなせる自信がミジンコほどもないのは事実である。
いや、問題はそこじゃない。
「あのね、雪生! 一般庶民かつ高校生の俺に、スーツを買うようなお金があるわけないでしょ!」
オーダーメイドのスーツが果たしていくらするものなのか。詳しくは知らないが、鳴のお年玉貯金をはたいても足りないのは間違いない。
金銭感覚が壊死している雪生にはわからないんだろうが、高校生にとって数十万は気が遠くなるほどの大金なのだ。
「安心しろ。買うのはおまえじゃない、俺だ。パーティーに招待する以上、責任があるからな」
「いやいやいや! スーツみたいな高いもの買ってもらうわけにはいかないよ!」
「パーティーにいきたくないのか?」
雪生は意外そうな視線を向けてきた。
「パーティーの料理が食べたいんじゃないのか? さっきはあれほど羨ましそうにしていたのに」
「そ、それは――」
はっきり言って無茶苦茶食べたい。キャビアにトリュフに豚の丸焼きに大トロたち。絢爛豪華なディナーがおいでおいでと鳴を手招きしている。
「思ったんだけど、ちゃんとした格好ならスーツじゃなくても――」
「パーティーにはドレスコードがある。男性はスーツ、女性はドレスじゃないと会場に入れないぞ」
鳴はぐうと呻いた。
パーティーにはいきたい。というかパーティーの料理が食べたい。だからといって五百円以上するものを奢ってもらうわけにはいかない。
奢るのも奢られるのも五百円まで。これは鳴の鉄則だ。
「俺が買うといってるんだからそれでいいだろ。なにもおまえに臓器を売って金を作れと言ってるわけじゃないんだ」
雪生は呆れた表情だ。鳴はその顔をギッと睨んだ。
「俺が買うってかんたんに言うけどさ、元々は親の金でしょ! もうちょっと大切に――」
「俺が稼いだ俺の金だ。どう使おうが俺の自由だ」
「俺の金、って――?」
「桜家は十五歳になると学費と生活費以外の一切の援助を打ち切られる。自由になる金が欲しかったら自分たちで稼ぐしかない」
脳裏にパッと浮かんだのは、工事現場で肉体労働にいそしむ雪生の姿だ。ほんとうにそうやって稼いだのならちょっと感動してしまうが、二百パーセント違うだろう。
「稼ぐってどうやって? うちの学校はアルバイト禁止だよね」
そもそもその前に雪生がアルバイトをしていたらルームメイトの鳴にわからないはずがない。
「株式投資だ。空いた時間を利用して偶に株の売買をしている。経済の勉強にもなるし、金も稼げる。一石二鳥だ」
「株式投資――」
これまた鳴には縁遠いものだ。経済の動きなんて鳴には皆目見当もつかないが、雪生レベルの頭があれば難なく読み取れるんだろう。
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