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借金よ、こんにちは 7
「大袈裟な奴だな。たかだかスーツ一着ぶんだぞ。何千万もするわけじゃない」
雪生はあっさり言ってくれるが、一般庶民の高校生には何千万どころか一万円、いや五千円だって大金だ。
「……ちなみにさっきのスーツ、おいくらなの?」
「だいたい五、六十万くらいだ」
「五、六じゅ――……って、雪生、五十万と六十万の間には十万円の開きがあるんだよ。十万って言えば大金だよ、大金! 雪生にとってははした金なのかもしれないけど、健全な金銭感覚の持ち主にとっては大金なの。その五十万と六十万をひとまとめにして言わないでよ。五十万と六十万じゃ絶望の深さが違ってくるんだから」
「安心しろ。返せそうにないなら返さなくていい。借金を取り立てるようなみっともない真似をするつもりはないからな」
雪生はそう言いながらテーブルの上のメニューを開いた。
「……返せそうにないなら返さなくていい?」
鳴の声が不穏なまでに低かったせいだろう。雪生はメニューから顔を上げた。
「なんだその不満そうな表情は。俺は金を返さなくていいと言ってるんだぞ」
「雪生、いったいお金をなんだと思ってるんだよ!」
テーブルにバシッと手の平を叩きつけると、杏の形をした瞳がびっくりしたように見開かれた。
「いくらお金持ちのお坊ちゃまで、いくら株で稼いでいたって、明日には大不況がやってくるかもしれないんだよ!? 前にもあったでしょ。えーっと、あの、サラリーマンショックとかいう奴が。またあんな事態になったらどうするつもりだよ。お金持ちから一転して借金持ちに早変わりだよ? そうなってから『ああ……あのときの五、六十万があれば……』って後悔したって遅いんだよ!?」
「サラリーマンショックじゃなくリーマンショックだ」
「――それはともかく、俺は稼いだお金をもっと大切にしなさいって言いたいの。貸した金は返さなくていいなんて、そんなことはぜーったいに言っちゃだめだよ。本気にして返さない人だっているかもしれないだろ」
鳴は勢いに任せて憤然と言った。きっと千倍返しで反論が返ってくるだろうと思って肩に力をこめたのだが――
雪生は無言で鳴を見つめているだけだった。その顔にはどういうわけなのか微笑が浮かんでいる。
「安心しろ。よっぽど信頼している人間にしか金を貸したりしない」
「え、あ、そ、そうなんだ……」
思いがけない反応に思わず固まる。
(……えーっと、それってつまり、俺を信頼してるってこと?)
ひょっとして、いや、ひょっとしなくても雪生が明け透けに好意的な言葉を向けてきたのはこれが初めてかもしれない。嬉しいを通り越してなんだかたまらなく恥ずかしい。
(っていうか、なんなのその妙に穏やかな微笑みは……! そんな風に微笑まれるとなんか、なんか、なんか――)
心臓がどきどきざわざわして落ち着かなくなる。
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