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センチメンタルパーティー 2

「そういえば雪生のおじいさん、どうして俺を招待してくれたの」  パーティー会場のホテルへ向かう途中、鳴はふと気になって訊いてみた。  迎えの自家用車はいつもの真っ白いベンツ。運転手もいつもの初老の男性だった。 「今更それを訊くのか?」  隣に座っている雪生は呆れた眼差しを向けてきた。鳴は肩を小さくしながらも反論した。 「借金を背負ったショックが大き過ぎて、他のことまで気にする余裕がなかったんだよ」 「祖父はおまえに謝罪したいそうだ」 「謝罪?」  鳴は首を傾げた。会ったこともない老人が孫の後輩にいったいなにを謝罪するつもりなのか。それも相手は世界に名高い大企業の会長だ。 「あ、日ごろの無体な仕打ちを孫にかわって謝ってくれるってこと? どっちかって言わなくても、おじいさんじゃなく雪生本人に謝って欲しいんだけど」 「俺がいつおまえに無体な仕打ちをした。被害妄想も大概にしろ」  雪生の表情はいたって真面目だ。本気で言っているところが恐ろしい。 「祖父は辛子入り最中の件でおまえに謝りたいそうだ」 「辛子入り最中って――」  言われて思い出した。雪生の祖父からもらった最中に辛子が混入されていたことを。 「食べ物に悪戯するな、食べ物は大切にしろこのやろー、というおまえの言葉を伝えたところ、祖父は深く反省したらしい。おまえに直接会って謝りたいそうだ」 「えっ!? いや、そんなわざわざ謝ってもらわなくても――」 「面と向かって謝らないと祖父の気が済まないそうだ」  とんでもない悪戯をする割に律儀な性格をしているようだ。鳴としてはご年配に謝られても気まずいだけなのだが。 「そろそろ到着いたします」  運転手――今日初めて聞いたが金田という名前らしい――は穏やかな声で告げた。  ベンツはホテルのロータリーへ入っていく。窓から見えるのは東京の街中とは思えない緑豊かな光景。美しく整えられた緑樹。サーモンピンクの薔薇が咲き誇る鉄のアーチ。水しぶきを上げている巨大な噴水。緑の向こうにはいかにも高級そうな造りのホテルが待ち構えている。  いったい一泊いくらするのか。考えただけで懐が寒くなる。  硝子張りの扉の前に立つより早く、制服姿のドアボーイがさっと扉を開けた。 「雪生様、お待ちいたしておりました」  ドアボーイは美しい角度で頭を下げた。雪生は鷹揚に礼を言うと、慣れた足取りでロビーへ入っていく。 「雪生、このホテルの常連なの?」  小走りで雪生の後をついて歩きながら、鳴は訊ねた。 「ホテルの名前を見なかったのか? ここはうちが経営しているホテルだ」  SAKURAグループは航空をメインとする企業だが、世界の主要都市にラグジュアリーホテルを建てていることは、鳴でも知っている。  鳴は広々したロビーを見回した。  吹き抜けの天井、いかにもお高そうな布張りのソファー、あちこちに飾られたよくわからないが洒落ているオブジェ。  フロントに立つ従業員は感じのいい笑みを絶やさない。  ロビーには日本人だけではなく外国人客の姿も多かったが、誰も彼も見るからに金持ちそうだ。

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