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センチメンタルパーティー 7

「雪生、久しぶり! さっきからずーっと探してたんだよ」  腕に腕を絡めながら、上目遣いに雪生を見上げる。鳴は目を大きく見開いて少女を凝視した。 (か、可愛い……。え、ひょっとしてどこかのアイドル? テレビじゃ見たことのない顔だけど……)  長い睫毛にふちどられた二重の瞳、桜色に艶めく小さな唇、白磁を思わせるきめ細やかな肌。パールピンクのワンピースから伸びた手足はしなやかに細く、髪をひとつに結い上げて白いうなじを晒している。  テレビの中で歌ったり踊ったりしていても、まったく違和感がない容姿だ。 「なんだ瑠璃か」  腕に絡みつかれた雪生はさも面倒くさそうに呟いた。  鳴だったら有頂天になって鼻の下を一メートルは伸ばしているシチュエーションなのに。彼女いない歴=年齢の鳴としては雪生のぞんざいな態度が少々、いやかなり腹立たしい。 (こんな可愛い子に抱きつかれてるんだから、気取ってないでちょっとくらいデレて見せろっつーの! いや、デレデレしてる雪生が見たいわけじゃないけどさ。デレデレされたりしたら、それはそれでちょっと嫌かも……。って、あれ? 俺、なんで雪生がデレるのが嫌なんだろ……?)  鳴は自分自身の思いがよくわからず首を傾げた。  みっともない雪生の姿なんて早々お目にかかれるものじゃない。心の中で指差して笑ってやる絶好のチャンスだ。なのに。 「もう、なんだはないでしょ! やっと日本に帰ってきたと思ったら、全寮制の高校になんて入っちゃうんだから。おかげでちっとも会えないじゃない」  瑠璃と呼ばれた少女は桜色の唇を尖らせた。その目がふっと鳴へ向く。 「……こちらはどなた? お会いしたことありませんよね?」  前半は雪生へ、後半は鳴へ向けられた言葉だった。美少女に見つめられて指の先まで緊張が走る。 「あ、は、はい! えっと、僕は――」 「高校の後輩だ。祖父が会いたいというからつれてきた」  鳴が答えるより先に雪生が言った。 「雪生のおじい様が?」  瑠璃は不思議そうに首を傾げたが、 「あっ、まだ名前も言ってませんでしたね。あたし、西条瑠璃(さいじょう るり)です。雪生の婚約者の」  にっこり微笑んでそう言うと、雪生の肩に頬を寄せた。 「こっ――」  言葉につまった。鳴は両目を見開いて瑠璃を凝視した。  瑠璃は無邪気な笑みを浮かべて、雪生に寄り添っている。 「婚約者って――」  婚約者すなわち雪生とこの美少女はいつか結婚するということだ。  外見のレベルはぴったり釣り合っている。正しく美男美女のふたりだ。パーティーに呼ばれるくらいだから、家柄も桜家にふさわしいんだろう。 (でも、だけど、だって――) 「婚約者といっても正式なものじゃない」  雪生の口調はやはりぞんざい極まりなかった。 (おいおいおいおい! 美少女にべったりくっつかれてるのに、その態度はないでしょ! クール通り越して不感症なんじゃないの!? ていうか、雪生の左腕におっぱいが当たってるし! 俺だったら鼻血ものだよ!? ちょっとくらいデレてみせろ! いや、デレてる雪生なんて見たくない。見たくないんだけど……)  鳴の胸中は複雑だった。

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