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センチメンタルパーティー 10
「雪生がずいぶんと世話になっているようだね」
「いや、そんな……ことはありますね、はい」
否定しようと思ったが、これまでの出来事を思い出して思わず肯定していた。龍彦は気にした様子もなく小さく笑った。
「あれは優秀な人間だが、優秀過ぎる故に困ったところもある」
「あー、わかりますわかります。勉強もスポーツもできるけど、ちょっとかなりだいぶ浮世離れしてるっていうか常識外れですよねー」
「はは、まあ確かに浮世離れしている一面はあるな。だが、もしも相馬君が雪生をそう思っているのなら、それはよっぽど気を許されている証だよ。あれは完璧を装うのが得意だからね。他人にそう易々と己の欠点を見せたりしない」
龍彦はにこやかに微笑んだ。
気を許していると言えば聞こえはいいが、要は奴隷の鳴にどう思われようがどうだっていいだけのような気がする。
「あれの困った点は、完璧過ぎるが故に他人を必要としないところだよ」
「他人を必要としない、ですか……?」
「いくら優秀でもたったひとりで成し遂げられることはごくわずかだ。周りの力添えがあってこそ、人は実力以上の力を発揮できる。それがいまいちわかっておらん。頭では理解しているんだろうが、実感として理解していない」
確かに雪生が他人を頼るところは想像できない。前生徒会長の件もたったひとりで解決してしまったようだし。
ギャルソンが丸皿に盛られた寿司を運んできたため、会話は一時中断となった。
艷やかな大トロを頬張ると、口いっぱいに幸せの味が広がった。本日これで五貫目の大トロだったが、あと十貫、いや二十貫は軽くいけそうだ。
「相馬君は実に美味そうに寿司を食べるな」
龍彦は笑って言った。
「いや、だって、ほんとに美味しいんですもん」
さすがに一皿百円(税別)の回転寿司とは違いますね、と続けようとしてやめた。比べるのは銀座の高級店と庶民の味方回転寿司、どちらに対しても失礼だ。
「雪生のことだがね、よろしく頼むよ。どうやらあれには君が必要らしい」
「いや、別に必要とされてるわけじゃ――」
「雪生にルームメイトができたと聞いて、心底から驚いたよ。他人を傍におくようなタイプじゃないと思っていたからね。雪生が変わったわけじゃなく、君が特別なんだろう」
「いや、特別ってわけでも……」
(なくもないのか……? 少なくとも友達ではある、はず。一ノ瀬先輩も『ふたりは友達だ』って断言してくれたし)
雪生は相手が誰であっても一線を引いて、そのラインを越すことを許さない。が、鳴だけはそのラインを踏むことを許されている。そう思うのは自惚れではないはずだ。
内側に入っていくことまではまだ許されていないけれど。
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