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センチメンタルパーティー 13

「おまえはほんとうに美味そうに食べるな」  心臓が肋骨を破りそうな勢いでどくっと跳ねる。鳴は慌てて目を逸らした。このまま雪生を見ていたら喉と胸がつまってせっかくの食事どころじゃなくなってしまう。 「え、えーっと、次はどれにしようかなー! あ、このパイみたいなの美味しそうだね!」 「それはフォアグラのアンクルートだ。さっきギャルソンが説明してただろ」 「ふぉ、フォアグラ!? おキャビア様と肩を並べるあのお金持ちの象徴、フォアグラ様!?」 「いちいち食べ物に様をつけるな。アホがますますアホに見える」  雪生が冷淡な声でツッコミを入れたときだった。 「なんだ、雪生。おまえもきていたのか」  雪生よりも遥かに冷淡で不機嫌そうな声がすぐ近くから聞こえた。  かっちりしたスーツ姿の男がこちらへ向かって歩いてきたかと思うと、やはり冷淡な眼差しを雪生に向けた。 「兄さん、お久しぶりです」  雪生は相手の冷淡な態度を気にした様子もなく、にこやかに微笑みかけた。  が、鳴にはわかった。平静を装っているが雪生のまとっている空気が微妙に張りつめたことを。 (……この人が雪生のお兄さん。なんだかあんまり似てないな)  二十代前半だろうか。身長は雪生とほぼ同じくらいで、身体つきも均整が取れている。顔立ちだって悪くない。イケメンの部類だ。が、しかし、雪生が持っている華やかさは欠片もない。  有り体に言ってしまうと雪生に比べて地味な印象は拭えなかった。 「学業が忙しいんじゃないのか? 大学を卒業したのに、わざわざ日本の高校に入り直したくらいだ。勉強がしたくてしたくてたまらないんだろ。無理して出席しなくてもよかったんだぞ」 「会長の誕生パーティーですから。出席しないという選択はありませんよ」  雪生が微笑んで答えると、雪生の兄は鼻白んだ様子だった。  雪生に対する敵愾心をびしびし感じるのは鳴の気のせいではないはずだ。なんだか弟というよりも憎いライバルに対する態度といった感じだ。 (ひょっとして仲が悪いのかな……?)  鳴はなんだか心配になって雪生を見つめた。  整うだけ整った顔には仮面のような笑顔が貼りついている。生徒たちに向ける心のない笑顔ともまた違う。もっと頑なで、それ故にもろい気配を感じさせる笑顔。 「相変わらずご機嫌取りには余念がないな。会長のお気に入りの座を死守するのに必死か? ……こちらは?」  雪生の兄の目がいきなり鳴に向いた。値踏みするように見つめられて、肩が小さく縮こまる。 「僕の高校の後輩です」 「後輩? 招待客でもないのに勝手につれてきたのか?」 「いえ、彼は会長からじきじきに招待されています。言わば賓客ですよ。鳴、僕の兄の桜月臣(さくら つきおみ)だ。SAKURAの系列会社で働いている」  月臣は驚いたように目を見開くと、まじまじと鳴を見つめた。  この七五三とSAKURAグループの会長にどんな関わりが、と訝しんでるのがありありとわかる。雪生と違って思っていることが顔に出やすいタイプのようだ。 「これは失礼しました。まさか会長のお知り合いだとは思いもしなかったので。桜月臣です。どうぞよろしく」  先ほどまでの感じの悪さが嘘のような笑顔で、鳴に右手を差し伸べる。 「あっ、これはこれはどうもご丁寧に。弟さんの後輩の相馬鳴です」 「相馬君、ですか。失礼ですがお父様は何をしておいでで?」 「えっ? 父はごくふつーのサラリーマンですけど」 「お母様は?」 「母もごくふつーの専業主婦ですけど……」  なんで両親のことを訊くんだろう、と思いつつ素直に答える。  月臣の眉が不可解そうに動いた。 「……要するにSAKURAグループとは縁もゆかりもないということですね。気まぐれな会長が気まぐれに呼んだ、と」 「まあ、はい、そうですね……」  途端に虫ケラを見るような眼差しに変わる。  場違いなことは自覚しているが、あからさまな態度を取られると居たたまれなくなってしまう。鳴はますます肩を小さくした。

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