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センチメンタルパーティー 14

「どうして利用価値もない人間の相手をしているんだ。おまえらしくないじゃないか。ああ、いつもの気まぐれとはいえ、会長の招待客だからか」  雪生に向けられた言葉には無数の棘が生えていた。 「ひどいですね。僕はそこまで計算高い人間じゃないですよ」  雪生は少し困ったように微笑した。本心を見事に隠し通す笑顔だ。月臣の眉が苛立たしげに寄る。 「相馬君、こいつには気をつけたほうがいい。弟は利用価値のない相手に好きこのんで近づいたりしない。利用されるだけされて、役に立たなくなったら切り捨てられるだけ――」 「雪生はそんな奴じゃないですよ」  咄嗟に反論していた。  雪生は困ったように微笑んでいるだけだが、笑顔の下で傷ついていることくらい鳴にはわかる。伊達にルームメイト兼奴隸をやっているわけじゃないのだ。 「そりゃあ雪生は我侭だし俺様だし口は悪いし非常識だし、いつか百倍返ししてやるって心の底で思ってますよ。でも――」  鳴は言葉を切ると、月臣を真っ向から見据えた。 「人を利用するような汚い人間じゃないです。どっちかって言わなくても純粋な人間です。我侭だし俺様だし口は悪いし非常識だけど。あなた、雪生のお兄さんなんでしょ? それなのにそんなこともわからないんですか?」  言い終わってハッとする。  しまった。感情のままに言いたい放題言ってしまった。  恐る恐る月臣の顔色を窺うと、錆びたナイフのような目つきで睨まれた。 「……おまえの後輩らしい、実に失礼な人間だな」 「彼に代わって僕が謝ります。申し訳ありませんでした」  雪生は眉を緩く下げると、深々と頭を垂れた。  月臣は今にも舌打ちせんばかりの表情で弟を睨めつけたが、 「……見事に手なづけたものだな。アメリカで学んだのは学問じゃなく人心掌握術か?」  捨て台詞を残して大股にこの場から去っていった。  鳴は複雑な思いで月臣の背中を見送った。 (なんだか毛を逆立てたハリネズミみたいな人だったな……。どうして弟相手にあんなにトゲトゲしてるんだろ。ていうか、雪生もこういうときこそいつもの毒舌を発揮すればいいのに) 「おい」 「えっ――いてててててて!」 「誰が我侭で俺様で口が悪くて非常識だって? しかも二回も言ったな」 「それはあなた様です――って、ごめんなさい! 言い過ぎました! 痛い! 離して!」  頬をつねっていた指はあっさり離れた。  人が庇ってやったのにこの仕打ち。あまりと言えばあまりだ。  鳴は涙目で頬をさすった。 「……お兄さんと仲が悪いの?」 「昔は違ったんだ。子供のころはよく遊んでもらった。……弟思いの優しい兄だった」  雪生の目は遠ざかっていく兄の背中に向けられている。笑顔が消えたその顔はやけに淋しげで、鳴の胸にまで切なさがこみ上げてきた。 (雪生は慕ってるみたいなのに、なんだってあんな態度……。俺はひとりっ子だからよくわかんないけど、兄弟って喧嘩はしてもすぐに仲直りできるものなんじゃないの?)  月臣の背中はゲストに紛れて、すぐに見えなくなってしまった。

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