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パンク少年、メイド喫茶へゆく 6
「恋する♡ミックスジュースです。ご主人様、どうぞ」
鳴の目の前へ大振りのグラスがコースターと共に差し出される。パッと見たところごく普通のミックスジュースだが、よく見るとハートの形をしたゼリーらしきものが浮かんでいる。このゼリーが恋する♡を体現しているらしい。
「こちらは愛のふーふー♡コーヒーです。猫舌のご主人様のために心をこめてふーふーさせていただきますね」
メイドは翼の前にスプーンとソーサーを置くと、コーヒーのカップを手にしてふーっ、ふーっと何度か息を吹きかけた。
なるほど、それでふーふー♡コーヒーなのか。鳴は納得するのと同時、あっちにすればよかったと後悔した。
それからほどなくして料理が運ばれてきた。お絵描きオムライスはその名の通り、メイドがケチャップで絵を描いてくれるというものだった。
「ご主人様、なにを描きますか?」
「……くまちゃん」
「はい、くまちゃんですね!」
メイドは慣れた手つきで可愛らしいくまを描いていく。それが終わると次は鳴の番だ。
鳴はパンケーキにシロップをかけようとしたのだが、
「ご主人様、まずわたしが見本をお見せしますね」
メイドにやんわり止められた。
(見本? シロップをかける見本ってなんだ? っていうか、なんでシロップのピッチャーがふたつあるんだ?)
鳴の疑問はすぐに解消された。
「じゃあ、パンケーキに魔法をかけますね。……せーの! あまーくなあれ、おいしくなあれ、あまーいあまーいパンケーキになあれー!」
メイドは謎の呪文を唱えながら、パンケーキの上にシロップを丸く垂らしていく。
「はい、ご主人様も魔法をかけてくださいね」
「えっ!?」
メイドは鳴にシロップのピッチャーを手渡した。
まさか今のあやしい呪文を鳴にも唱えろと言うんだろうか。可愛いメイドが唱えるならまだしも、鳴が唱えたらただの変態だ。
「ご主人様、はいどうぞ」
鳴は周囲を見回した。誰も鳴を見ていない。客たちは料理を食べたり、通りかかったメイドに話しかけたりと、それぞれの時間を楽しんでいる。
(……そっか、ここではあやしい呪文もごくごくふつーの光景なんだ。よし、郷に入っては郷に従え。メイド喫茶に入ってはメイドに従えだ)
鳴は小さなピッチャーを高々と持ち上げると、元気いっぱいに呪文を唱えた。
「あまーくなあれ、おいしくなあれ、あまーいあまーいパンケーキになあれー!」
「ご主人様、とってもお上手ですー」
(なんだかひとつ大人になった気がする……)
鳴は達成感と共に甘過ぎるパンケーキを噛み締めたのだった。
それからも会話が特に盛り上がることはなかったが、鉛のごとき沈黙がのしかかることもなかった。
ちょっとは仲良くなれたのかな……? と疑問符つきで思いながら、鳴は翼と共に帰路についた。
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