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平凡少年の躍進 3
「相馬君、中間テストの順位が発表されたみたいだよ。見にいこうよ」
月曜日、三時限目の休み時間。前の席の瀬尾朝人が鳴に声をかけてきた。
ドキンと心臓が跳ねる。うっかり喉から出そうな勢いで。
とうとうこの時がきてしまった。泣いても笑っても逆上して全裸で校舎を駆け回っても、学年十位以内に入っていなくては半年間夕食抜きの刑に処されてしまう。
結果を見るのが恐ろしい。が、結果から目を背けたところで未来が変わるわけじゃない。雪生だって一年生のテスト順位くらいチェックしているだろう。
鳴は息を深く吸いこむと席から立ち上がった。
「……よし、いこう」
平凡顔を最大限にキリッと引き締めて、教室の出入り口へ向かった。
一年生の試験結果は一階の渡り廊下手前に貼り出されていた。
真っ白い横長の紙に毛筆体でずらっと名前が書かれている。書かれているのは五十位以内に入った生徒だけだ。大勢の生徒がわいわい騷ぎながら順位表に群がっている。
鳴は生徒たちの背後から順位表をそーっとのぞきこんだ。
いきなり十位から見てしまうのは心臓に悪すぎる。五十位から順々に見ていくことにしよう。
「……おい、あれ、桜さんの」
「ああ、例の奴隷か」
鳴に気がつくと生徒たちはさーっと空間を空ける。
好奇心剥き出しでじろじろ見てくる生徒、敵を見るような目つきで睨んでくる生徒、鳴の頭の天辺から爪先まで視線で品定めする生徒。反応は様々だ。
(珍獣でも親の仇でもないんだから……そんなじろじろ見なくたって……)
他人の視線に慣れない平凡少年はついつい肩が小さくなってしまう。鳴はできるかぎり目立たないようにこそこそと順位表を確認していった。
「……あった!」
明るい声を上げたのは朝人だ。
「えっ!? どこどこ?」
「三十位のところ……。思った以上にできていたみたいだ」
朝人は嬉しそうな笑顔でよかったと呟いた。友人の好成績に鳴まで嬉しくなる。
「三十位とかすごいじゃない! やったね、瀬尾君。俺も友人として鼻が高いよ」
「ありがとう、相馬君。……でも、相馬君はもっともっと良い成績じゃないとだめなんだよね……」
朝人の顔に翳りが落ちる。せっかく三十位という成績を修めたのに、鳴のせいで暗い心境にしてしまった。
「きっとたぶん恐らく大丈夫だよ。ほら、信じる者は救われるっていうじゃない。さーて、俺の名前はどこにあるのかなー。ひょっとしていちばん先頭にあったりして」
あはははは、とから笑いしながら順位を逆に追っていく。
順位が小さくなるにつれて、反比例するように鼓動が大きくなっていく。心臓が痛い。この若さで心臓発作を起こしたら間違いなく雪生のせいだ。
ついに十一位まできてしまったが、鳴の名前はまだ出てこなかった。果たしてこの先に名前をつらねているのか、それとも五十位以内にすら入っていないのか。
(神様……! いや、この際だ。悪魔だってかまわない。誰でもいいから哀れな庶民をお救いください)
両手をぎゅっと握りしめながら、恐る恐る視線を移動させる。
十位 相馬鳴
いきなり見慣れた名前が視界に飛びこんできた。
(……相馬鳴って誰だっけ? なんだかすっごく見覚えのある名前なんだけど……――って、俺だよ!)
「そ、そ、相馬君! あったよ! 相馬君の名前が十位のところにあった!」
朝人はうわずった声で言いながら鳴の肩を叩いてきた。
「せ、せ、瀬尾君にも見えてるってことは幻覚じゃないんだよね!? じゅ、十位のとこに俺の名前が書いてあるんだよね?」
「うん、書いてあるよ。幻覚じゃないよ」
鳴と朝人は顔を見合わせると手に手を取り合った。
「よかったね、相馬君。おめでとう」
「瀬尾君、ありがとう!」
ふたりは手を握り合ったまま、女子のようにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
周囲から呆れた、あるいは冷ややかな視線が飛んできたが、鳴は喜びのあまり少しも気づかなかったし、気づいたとしてもこの喜びの前にはどうでもいいことだった。
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