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ファーストフレンド 3

 月臣が鳴たちをつれていったのは瀟洒な構えのレストランだった。白い壁に小さな看板がかかっているが、どうやらフランス語らしく鳴には読めなかった。 「これはこれは桜様。ようこそいらっしゃいました」  月臣が木製のドアを押し開けて入っていくと、レジカウンターの前に立っていた男が恭しい態度で出迎えた。三十代半ばだろうか。三つ揃いにネクタイというスタイルだ。 「三人だ。個室は用意できるな?」  月臣は愛想の欠片もない態度で言った。 (雪生だったら相手が従業員さんでももっと柔らかく言うのになあ。この人、外面だけはいいから。俺に対する態度と違いすぎてときどき不気味だけど)  しばらく待って鳴たちは個室へ案内された。  案内されたのは大きな窓のある十畳ほどの部屋だった。飲食店の個室というより、お屋敷の一室といった風情だ。テーブルの上にはすでに三人分のカトラリーやナフキンが用意されている。 「ずいぶんと狭いな。もっと広い部屋は空いていないのか?」  月臣は不愉快そうな顔を案内してくれた男へ向けた。 「申し訳ございません。生憎と他の個室は予約で埋まっておりまして」 「予約の客をこの部屋に変えればいいだけじゃないのか? それができない理由でも?」  月臣が不機嫌さを隠さずに言うと、男の顔に困惑と狼狽が浮かんだ。 「申し訳ございませんが、多人数でのご予約ですので――」 「それが私になんの関係があると?」  鳴は事の成り行きを呆然とながめていた。 (こっ、これが噂のモンスタークレーマーって奴? お店の人、困ってるみたいだけどどうすれば――) 「まったく……。先代のメートルなら桜の人間にこんな無礼な真似は絶対にしなかった。君がメートルになるのは時期尚早だったんじゃないのか? 今後の利用は考えさせてもらう。父と祖父にも今日のことは伝えておくからな」 「あっ、あのっ!」  鳴が思わず声を上げると、全員の視線が鳴に向いた。 「なんだ? 君はおまけでつれてきただけなんだ。余計な口を挟まないでくれないか」 「いや、えっと、メートルってなにかなって思いまして……。メートルがいるんならセンチとかミリとかもいるのかなーとか。もっと偉くなるとキロになるのかなーって」  月臣の冷眼を浴びて、あははははと引きつり気味の愛想笑いを浮かべる。 「メートルというのは給仕長のことだ」  雪生が横から説明してくれた。視線を鳴から月臣に移して、 「兄さん、僕たちを気遣ってくださってありがとうございます。でも、身内なんですから気遣いは不要ですよ。こちらの部屋でじゅうぶんです」  胡散くさいほどにこやかな笑顔で言った。月臣はますます険悪な表情になったが、ふいと顔を背けると「だ、そうだ」とだけ呟いた。  そして、鳴と雪生、それに月臣という奇妙な三人組での夕食が始まった。

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