207 / 279

ファーストフレンド 19

 つい先日、鳴は実家に電話をかけた。初恋の少女と遊んだ川について母親に訊いてみるためだ。  あの川がどこにあるのか、何歳のときに遊んだのかがわかれば、初恋の少女を探す手がかりになるかもしれない。そう思ったのだ。 「あ、もしもし、母さん? ちょっと訊きたいんだけどさ、俺が小さかったときにどこか山奥の川まで遊びにいったことってなかった?」 「どうしたのいきなり」  スマートフォンから成美の怪訝そうな声が聞こえてきた。少々質問が唐突だったかもしれない。が、下手な前置きをして初恋の少女を探しているのだと知られてはちょっと困る。困るというか恥ずかしい。 「いや、えーっと、幼いころの想い出っていうテーマで作文を書かないといけなくなって」 「高校生にもなって小学校みたいな宿題が出るのねえ。……山奥の川? そういえば鳴が子供のころ、何度かキャンプにいったけど、キャンプ場の近くに川があったような覚えがあるわ」 「そのキャンプ場ってどこ?」 「ええっと……栃木だったか茨城だったか……そのあたりだったと思うけど、あまりはっきり覚えてないわねえ。もうずいぶん昔の話だもの」  栃木か茨城の山奥にある川となるとかなりの数がありそうだ。どうにかしてもう少し絞りたい。 「キャンプ場の名前は覚えてない?」 「そんなこといちいち覚えてるわけないでしょ。……あ、そうだわ。鳴、あなた覚えてない? 子供のころ夏休みになるとおじいちゃんの実家に遊びにつれていってもらったこと。その家の近くにも川があって、そこで遊んだっていうようなことをあなたが話していたのを覚えてるわ」 「じいちゃんの実家……?」  言われてみれば幼稚園かそのくらいのときに何度かつれていってもらったような気がする。  いかにもといった感じの日本家屋がパッと脳裏に浮かび上がる。そうだ、広々した縁側に、その向こうには朝顔の咲く庭があった。居間には大きな振り子時計があって、夜更けにぼーんぼーんと鳴り響くのが無性に怖かったんだった。  が、川で遊んだかどうか、そこで初恋の少女と出会ったのかまでは思い出せなかった。  鳴は母親との会話を端折って雪生に話した。 「そんなわけでキャンプ場かじいちゃんの実家で出会った可能性が高いんじゃないかなーって」 「それでおまえはどうするつもりだ。けっきょくただの可能性の話で、なんにも思い出してないんだろ」  雪生の声も瞳も相変わらず冷ややかだった。雪生は鳴に対して基本的に冷淡だが、今日の雪生はいつも以上に冷ややかだ。大好きなお兄さんとふたりで遊びにいったりしたのがよっぽど気に食わなかったらしい。 「夏休みになったらじいちゃんの実家にいってみようかなって思ってさ。キャンプ場はどこなのかわからないし、とりあえずわかるところからいってみるつもり」  祖父の実家は鳴が小学校二年生のころに人手に渡った、とあの後、電話をかわってもらった祖父から聞いた。  祖父に「じいちゃんの実家を見てみたい」と申し出たところ、祖父は現在の家の持ち主に「孫が遊びにいってもいいか」と連絡を取ってくれた。なんでも昔からの知人に譲ったとのことで、相手はふたつ返事でオーケーしてくれたらしい。  そんなわけで鳴は夏休みが始まったら祖父の実家を訪れてみるつもりだった。

ともだちにシェアしよう!