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奴隷の証明 1
球技大会と中間テストが終わってひと段落つく、などということもなく、鳴を始めとする生徒会役員は武道大会の準備に追われ始めた。
生徒会の主要メンバーと生徒会に携わっている奴隷は球技大会や武道大会などには出場できない、という決まりだ。そのため鳴は裏方に徹していた。
武芸など嗜んだことが平凡庶民の鳴にあるはずもない。気楽でいいや、と思っていたのだが――
「今日も引き続き武芸大会の準備を進めることにする。なにか問題点があれば報告するように」
本日の生徒会も雪生の短い挨拶から始まった。
鳴は武道大会のスケジュールをパソコンへ打ち込んでいた。観客がなるべく多くの試合を観戦できるようにスケジュールは巧みに組んである。スケジュールを組んだのは鳴――のはずもなくもちろん雪生だ。
武道大会は柔道、剣道、弓道、空手と四種目で試合がおこなわれる。さすがは金持ち高校だけあって、大勢の観客を収容できる武道場が用意されているらしい。
大会には本職の審判を呼ぶことになっているし、校外の観客もかなりの人数になるらしい。それらを管理するのは武道大会の役員と生徒会役員及びその奴隷たちだ。
下準備の段階でも目の回る忙しさだったが、大会当日はほんとうに目を回して倒れるかもしれない。
(大会に出なくていいのは気楽でいいけど、これはこれで大変だな……)
キーボードを叩きながら溜息を吐いたときだった。
誰かがドアをノックした。生徒会の関係者ならいちいちノックなどしない。ということは訪問者は部外者だということだ。
雪生は読んでいた資料から顔を上げると、眉を緩く寄せてドアへ目を向けた。
「誰か出てくれ」
生徒会は会議中でなければ部外者の訪問も受けつける。もっともくだらない用事ならつまみ出されるが。
ドアの近くにいた太陽の奴隷がドアを開けると、そこには十人ほどの男子生徒が立っていた。ネクタイの色からすると二年と三年だ。
鳴はびっくりして訪問者をながめた。なにがあったのか揃いも揃って顔つきが険しい。
「白石、それに久世。生徒会になにか用か」
雪生は淡々とした口調だった。表情に一ミクロンの動きもない。
「前年度までの桜の奴隷たちだよ」
太陽は鳴に顔を近づけてそっと教えてくれた。
雪生の元奴隷。鳴は改めて男子生徒たちの顔をながめた。きちんと人数を数えるとぜんぶで九人。つまり宮村以外の元奴隷が揃っているらしい。
「桜生徒会長に元奴隷一同からお願いがあります」
ひとりの男子生徒が一歩前に進み出た。美しく整った顔立ちをした生徒で、女性モデルさながらにすらりとした体型だ。ネクタイの色からすると雪生と同じニ年生らしい。
「白石、言ってみろ」
白石と呼ばれた生徒はありがとうございます、と一礼してから口を開いた。
「僕たち奴隷一同は、入学式からずっと相馬鳴を観察し続けていました」
いきなり自分の名前が飛び出してぎょっとする。まさか宮村以外にも鳴を観察している生徒がいたなんて。平凡少年を観察するより朝顔でも観察したほうがよっぽど有意義なのに。
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