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奴隷の証明 3
その日の生徒会業務が終わると、鳴は雪生につれられて弓道場へと向かった。
「ここは武道大会用の弓道場だ。弓道部の生徒がここを使用することはない。つまりへっぽこ素人のおまえが練習に使っても支障はない、ということだ」
「へっぽこ素人て」
その通りではあるが他人の口から言われると腹が立つ。自ら望んで弓道勝負をするわけじゃないから尚更だ。
更衣室にはあらかじめ二着の弓道着が用意してあった。恐らく雪生が用意しておくように誰かに命じたんだろう。
雪生は制服を脱ぐと慣れた手つきで弓道着に着替えた。思わず息を呑む。真っ白い上衣に黒の袴。胸当てに足袋という姿が腹立たしいほど様になっている。
鳴は見様見真似で着替えたが、
「……なにその目は」
雪生が憐れむような眼差しで見ていることに気づき、眉間を寄せた。
「いや……馬子にも衣装ということわざをことごとく無効化してしまうおまえの才能に感心していただけだ」
そういうのは感心ではなく馬鹿にするというのだ。相変わらず口の悪い男だ。様になっていない自覚はあるので、あまり反論できないのが悔しいところだ。
磨き上げられた床にふたりならんで立つ。芝の生えたスペースの向こうには屋根があり、その下に紫の幕(後で雪生に聞いたところ安土幕と呼ぶらしい)、更にその下に六つの的がならんでいる。
あの的に弓を当てればいいこと。中心の丸に近ければ近いほど高得点なこと。それくらいは鳴でも知っている。
「おまえは弓を引いたこともないと言っていたな。まずは弓をきちんと引けるように努力しろ。的に当てるのを考えるのはそれからだ」
「弓を引くって……弦をひっぱればいいだけじゃないの」
「とりあえずやってみるといい。背筋をまっすぐ伸ばして的に向いて立ってみろ。もう少し顎を引け。……鳴、ふざけた顔をするな。もっと真面目にやれ」
「……いや、ふつうに真顔なんだけど」
「そうか、てっきりふざけているものとばかり思った。すまない」
雪生の謝罪は常にと言っていいほどいつもいつも腹立たしい。
雪生は鳴の背後に立つと、後ろから抱きしめるようにして鳴の姿勢や弓の構えを正してくれた。鳴が女子だったら胸がキュンキュンして鳴り止まないところだが、男の鳴でも少しキュンとしてしまうシチュエーションだ。
(しっかし、つくづく少女マンガから抜け出してきたような人だよなあ……)
超のつくイケメンで超金持ちで超がつくほど頭がよくって、やっぱり超がつくほど運動神経抜群ときている。おまけに弓道まで得意だとは。
まあ、そのかわり非常識さ加減も超がつくわけだが。
「鳴、ちゃんと集中しろ。いい加減な気持ちで弦を引くと耳に当たって怪我をするぞ」
「えっ! わ、わかった」
雪生に背後からサポートを受けながら弦を引く。思ったよりも力がいる。
「足をもう少し開け。身長の半分ほど開くとちょうどいい。爪先ももう少し開け。床板が六枚入るくらいだ」
雪生は弓道の基本となる射法八節なるものを教示してくれたが、正直言って一気にあれこれ言われてもわけがわからない。
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