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奴隷の証明 9

「もうひとり誰か足を持ってくれ」 「おい、暴れるな! 暴れると廊下に落とすぞ!」  恫喝されて、鳴は動きをぴたっと止めた。どのくらいの高さに持ち上げられているのかわからない以上、廊下に激突する事態は避けたい。  どうやら鳴は数人の男子生徒たちによって持ち上げられているらしい。お神輿じゃないんだから勝手に持ち上げたりしないでいただきたい。せめてひとこと許可を取るとか。  まあ、お神輿さながらに担がせてくださいと言われたら、全力ダッシュで逃げるだけだけど。 「ほら、さっさと運んでくれ。人に見つかったら大事になる」  鳴は肩をぴくっと揺らした。いまの声には聞き覚えがある。鳴の記憶に間違いがなければ、雪生の元奴隷――白石だ。  なんだって白石がこんな真似をするのか。わけがわからないにもほどがある。本人に訊いてみたかったが口を塞がれていてはどうしようもない。  身体が上下に揺れ、それに合わせて足音が聞こえる。どうやらどこかへ運ばれていくらしい。  まさか山奥へつれていって地中深く埋めるつもりじゃ――  二時間サスペンスの効果音が脳内で鳴り響く。嫌な汗がじわりと滲んだが、足音はすぐに止まってドアの開く音が聞こえた。 「そのあたりに転がしておいてくれ」  白石の声が命じた通り、鳴の身体は硬い床に転がった。慌てて起きようとしたが、複数の手に押さえつけられて両手首と両足首を縛られてしまった。それどころか頭の布らしきものも首のところで縛られてしまう。 (ちょっ! なにしてるんだよ! 俺にそーゆー趣味はないんですけど!? って、ちょっと訊いてる!? いや、聞こえるわけないか……)  鳴は身体をよじって必死に抵抗したのだが、相手が複数人の上に視界が奪われていては無駄な抵抗でしかなかった。 「念のためにスマホは離れたところにおいてくれ。文字通り手も足も出ないから大丈夫だとは思うけど」 「なあ、白――」 「馬鹿! 名前を出すなよ!」 「わ、悪い、ついうっかりして。でも、これでほんとうに上手くいくのか……?」 「大丈夫さ。彼の言いぶんなんて誰も耳を貸すものか。全校生徒を敵にまわしているような存在だぞ。それに証人ならいくらでもいるからな。……さあ、もういこう」  足音が遠ざかり、ドアの閉まる音とがちゃりと鍵の回る音が聞こえた。 (……いっちゃった。ここどこなんだろ。なんで俺を拉致監禁なんて――あっ! 弓道の試合どうしよう……! いかなかったらきっと自動的に俺の負け、だよね)  ひょっとして確実に勝利をものにするために鳴を拉致監禁したんだろうか。  だとしたらあまりに卑劣だ。まともに戦っていたとしてもまず間違いなく経験者の白石が勝っているだろうに。 (どうしよう……スマホは盗られちゃったし……。まあ、ポケットに入ったままでも手を縛られてちゃどうしようもないんだけど……)  なんとかして雪生に、雪生じゃなくてもいいから誰かに助けを求めないと。そのためには手か足の縄を解く必要がある。が、手と足どころか口も使えない状況では為す術がない。 (いや、でも、監禁されて試合に出られないんだったら、この勝負は無効になるんじゃない?)  そう気づいたときだった。鍵がそっと開く音が聞こえた。

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