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奴隷の証明 10
誰かもどってきた――?
改心して鳴を解放する気になったんだろうか。それとも鳴の口を封じるためにもどってきたとか……?
心臓が嫌な感じに高鳴る。ひたひたと足音が近づいてくる。
「……相馬さん、大丈夫ですか? えっと、荻山です。一ノ瀬先輩の奴隷の。わかりますか?」
それは思いがけない名前だった。雪生以外のキングには生徒会の業務を任されている奴隷がそれぞれ三人ずついる。萩山はそのひとりだ。ろくに口をきいたことはないが、顔と名前くらいは知っていた。
どうして太陽の奴隷がここにいるのかはわからない。が、声からすると鳴にとどめを刺しにきたわけじゃなさそうだ。
「ちょっと待っててください。いま縄を解きますね」
萩山はまず首の縄をほどいて、顔を覆っていた袋を取ってくれた。
鳴は瞬きした。雑然とした小部屋が視界に映る。どうやら物置らしく、机や椅子、ホワイトボードにスチールの棚などがせまい部屋につめこまれている。
救いの主に目を向けると、特に整っているわけではないが男らしさと爽やかさを兼ね備えた顔が鳴を見ていた。さすがは太陽の奴隷をしているだけのことはある。犬は飼い主に似るというが、奴隷は主人に似るのかも――
(……なわけないってことは俺の顔面が証明してますよねー。はいはいはい、わかってます)
「あー、ガムテですか。ちょっと痛いと思うけど我慢してくださいね」
荻山は顔をしかめながら口許のガムテープを勢いよくべりっと剥がした。
「いっ――! いだだだだだだ!」
皮を剥がれるかのような痛みに、瀕死の芋虫さながらに身悶える。
「す、すみません。でも、こういうのって一気にやったほうがまだマシだから」
「い、いいよ……大丈夫……ありがとう」
萩山はポケットからカッターナイフを取り出すと、鳴の手と足を縛っているビニールの紐を手際よく切り落とした。
鳴ははーっと安堵の溜息を吐いた。うっすらと痕が残っている手首をさすさすと撫でる。
「荻山君、助けてくれてありがとう……。あの、でも、どうして俺がここに閉じこめられてるってわかったの?」
「桜会長に頼まれたんです。試合が始まるまで相馬さんを密かに護衛してやってくれ、って」
「護衛? 雪生に?」
「監禁されるまでは放置でいいけど、もしも暴力を振るわれそうになったら会長を呼び出すように、と言われました。白石さんたちがすぐに出てきたから、暴力はないだろうなって思って、みんなが完全に立ち去るのを待ってから部屋に入ったんです」
白石が鳴を監禁することがわかっていた、というんだろうか。まさか、と思ったが、雪生だったらそれくらいお見通しでもおかしくない。
(でも、だったら護衛を頼む前に俺に言えよ! そうとわかっていれば誰もいない校舎にひとりで入ったりしなかったのに。っていうか監禁されるのも放置しないで欲しいんだけど!?)
「桜会長は白石さんたち元奴隷が相馬さんを監禁するかもしれない、と予想していました。桜会長の推測通りでしたね」
「いや、でも、監禁なんかしなくたって白石さんならふつーにやればふつーに勝てると思うんだけど」
「会長があっさり条件を受け入れたのを危ぶんだようですよ。口ではああ言っていたけど昔から弓道を習っているんじゃないのか。それとも会長に秘策があるのかも――白石さんは石橋を叩いて渡るタイプだからきっとそう考えるはずだ、と会長が」
つまり雪生の態度を深読みしすぎて犯罪まがいの行動に出た、ということか。
いや、雪生のことだから深読みさせるような態度をわざと取ったのかもしれない。
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