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奴隷の証明 11

「でもさ、俺が監禁されましたって先生たちに訴えたら、さすがに退学になるんじゃない? そうなったら奴隷に復帰するどころじゃないと思うんだけど」  鳴は当然の疑問を萩山にぶつけた。 「でも、目撃者はいませんからね。試合に負けるのが嫌で監禁された振りをした、と言い張るつもりだろう、とこれも桜会長が言っていました。アリバイの証言者も用意しているはずです。あいにくと相馬さんには敵が多いですから。どちらの証言が有効かといえば白石さんです。縄と袋はきっと後から誰かに外しにこさせる予定だったんでしょう」 「……なるほど」  そういえばそのようなことを白石も言っていた。  わけがわからないことだらけだったが、萩山の説明のおかげでだいたい理解できた。 「萩山くん、助けてくれてありがとう。でも、あの、思ったんだけど、萩山くんって俺とおんなじ一年だよね? 同級生なんだから敬語とかいらないよ。名前もさんづけじゃなくって呼び捨てでいいし」 「いや、でも、相馬さんは会長のたったひとりの奴隷ですから」  萩山はいささか困った様子で眉を寄せた。 「奴隷なんてみんな等しく奴隷でしょ。上も下もないよ」  鳴がにっこり笑うと、萩山は意表を突かれたように瞬きした。鳴の笑顔が移ったかのように顔いっぱいに笑みが広がる。 「……わかった。じゃあ、これからは相馬って呼ばせてもらうよ」 「うん、そうしてくれたほうが嬉しい。同い年なのにさんづけってなんか不気味だもん。じゃ、俺、そろそろ弓道場にいかないといけないから」  鳴は机の上におかれていたスマートフォンを回収すると、弓道着の入った袋をひっさげて部屋から出ようとした。が、なぜか萩山が腕をつかんで止めてきた。 「試合に出る必要はないよ」 「え?」 「白石さんたちに監禁されて試合に出られなかったことは俺が証言する。現奴隷と元奴隷なら現奴隷の証言のほうがより真実味がある。一ノ瀬さんも俺の後ろ盾になってくれるはずだ。勝てる可能性の低い試合をするよりも、そのほうが確実だよ。相馬が試合に出ようとしたら止めるように、って会長から言われてるんだ」  それは確かにその通りだ。  でも、試合に出なかったらこの十日間の努力が無駄になってしまう。十五年間の人生の中で初めて真剣にスポーツへ取り組んだのに。  それに鳴のぶんまで生徒会の仕事をしてくれた翼と太陽にどう説明する?  必死で励ましてくれた朝人には?  なによりも安易な道を選んで試合を棄権するような人間は鳴自身が好きじゃない。 「うん、でも、やっぱり俺、試合に出るよ。負けるかもしれないけどさ、っていうかきっと負けるけど、萩山くんが助けてくれたのにここに隠れてるのは卑怯かなって」  試合にはきっと負けるだろう。  試合に負けたら雪生の部屋を出ていかないといけなくなるかもしれない。淋しくないと言ったら嘘になる。  でも――  ルームメイトじゃなくなったって友達は友達だ。放課後、部屋へ遊びにいったり、休みの日は雪生を誘って街へ出かけたり、つき合いはいくらだって続けていける。  それくらいで壊れるような友情じゃない。たぶん、きっと、恐らく。 「じゃ、俺もういくね。あ、でも、俺が試合に出たりしたら萩山が雪生に怒られちゃうかな……?」 「大丈夫だよ」  萩山はなぜか面白そうに笑っている。 「相馬が試合に出るって言い張ったらいかせてやってくれ、って桜会長から言われてるから。相馬がそう言い出すことも会長はお見通しだったみたいだよ」  いったいどこまで慧眼なんだ、あのご主人様は。  鳴の行動をそこまで見抜いてくれていたことが嬉しくて、顔が勝手に笑ってしまう。 「相馬、がんばれよ。やるからには勝つつもりでやれよ」  萩山は鳴を励ますように拳で肩をひとつ叩いた。 「わかった。勝つつもりで全力でやるよ」  鳴はしっかりうなずくと、駆け足で弓道場へ向かった。

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