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奴隷の証明 13

「任せっきりにしちゃってすみません!」  鳴は一次予選の結果が出ると、猛ダッシュで武道大会本部へ向かった。  予選の結果はあえなく敗退。弓道場に残っていてもすることがないため、さっさと着替えて生徒会の仕事へもどることにしたのだ。  武道場の横に建てられた二十畳ほどのプレハブ小屋が武道大会本部だ。武道大会本部には太陽と数人の奴隷たち、それに武道大会の役員たちの姿があった。全員忙しなく立ち働いている。  ちなみにこの小屋は大会が終わったら撤去され、次の年の大会前にふたたび建てられるらしい。  ブルジョア校ここに極まれり、だ。 「おめでとう、相馬君。見事な勝利だったよ」  生徒会書記長――一ノ瀬太陽は拍手しながら、その名の通り太陽さながらに明るい笑みを鳴へ向けてきた。 「はあ、ありがとうございます。勝利って言っても二十人中十九位ですけど」  放った矢は計八本。鳴が的へ中てたのはそのうち三本。それも的のぎりぎり端っこだった。正直もう少しはやれると思っていたが、弓道はそれほど甘くなかった。  十日前に弓道を習い始めたばかりの素人なんだから、そんなものと言えばそんなものかもしれない。 「でも、肝心の白石には勝ったんだからじゅうぶん勝利だよ」 「俺が勝ったっていうか、白石先輩の自爆って感じですけどね」  白石が的に中てたのはなんとたったの一本だった。残りの七本は明後日の方向へ飛んでいってしまい、的をかすりもしなかった。  監禁したはずの鳴がのうのうと弓道場へ現れたことによほど動揺したらしい。心の乱れは矢の乱れ。雪生の言った通りだ。  まあ、しかし、底辺の戦いではあったが勝利は勝利だ。これで奴隷の座を追われずに済む。  いや、別に奴隷の座に拘りがあったわけじゃない。鳴が失いたくないのは雪生の隣というポジションで、そのためには奴隷という立場が必要なだけの話だ。 「生徒会長はどうしたんですか? まだ弓道場ですか」 「いや、今ごろはそれぞれの試合を見てまわってるよ。いくら自分の友人が出場しているといっても、それしか観戦しないのは贔屓が過ぎるからね。桜が観ているとなれば、みんな大いに張り切るだろうし」  奴隷ではなく友人という言葉を選んでくれたのが嬉しくて少しくすぐったい。  色々と雪生に訊きたいことがあったが、それは部屋でふたりきりになってからでもいいだろう。  鳴は太陽に仕事を割り振ってもらい、大会が終わるまで慌ただしく立ち働いた。  雪生とゆっくり話す時間が持てたのは、夕食が終わって部屋にもどってからだった。  雪生に命じられて紅茶を入れる。今日のリクエストはアッサムだ。鳴には茶葉の違いは漠然としかわからないのだが、雪生の舌には歴然としているらしい。 「あのさ、雪生。訊きたいことがたくさーんあるんだけど、いい?」  鳴は紅茶をテーブルにならべると、雪生の向かい側に腰を下ろしながら質問を切り出した。雪生は澄ました表情で紅茶を飲みながら、瞳だけ動かして鳴を見た。 「監禁される可能性がわかっていながら、なぜおまえに忠告しなかったのか、か?」 「そうだよ。いきなり口を塞がれて顔も袋で覆われちゃって、おまけに手足を縛られて監禁されたんだよ。ちょっとしたトラウマだよ」 「そんなことがトラウマになるような繊細な玉じゃないだろう、おまえは。おまえをあえて監禁させたのは、試合に出たところで勝つ可能性が極端に低かったからだ。それに白石が暴力行為に出る可能性もゼロに等しかった。暴力沙汰になれば警察の介入もある。そうなったら奴隷にもどるどころか退学だからな」  つまり鳴を奴隷に留め置くためにわざと監禁させたということか。そこまでは鳴もなんとなく察しがついていた。 「ていうかさ、だったら白石先輩たちの申し出なんて受けなきゃよかったじゃない。生徒会長にはみんな逆らえないんでしょ」 「申し出を受けた? なんの話だ?」  わざとらしいまでにすっとぼけた口調だった。 「いや、だから、雪生が白石先輩たち元奴隷の申し出を――」 「よく思い出してみろ。俺はひと言もわかっただとか了承したなんて言っていない」  鳴は十日前の出来事を思い出そうとした。が、雪生の言葉を完全に思い出せるほど記憶力がいいはずもない。

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