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夏休みカウントダウン 1

 あと一週間で一学期が終わる。 (この三ヶ月ちょっとの間、ほんっっっっとにいろいろあったなあ……。苦労に次ぐ苦労が俺を人として、でもって男として成長させてくれた気がする……)  鳴は姿見の前に立ち、ボディビルダーさながら両腕にぐっと力をこめた。うん、なかなか決まっている。  調子に乗った鳴は次から次へとポーズを決めていった。  眉間に皺を寄せてみる。うん、なかなかニヒルだ。中学時代にはなかった風格すら感じる。  ボディビルダーの定番ポーズは早々に尽きてしまった。  鳴は思いつくままジャニーズ風の、モデル風の、グラビアアイドル風のポーズを取っていく。 (そういえばグラビアアイドルって、おっきなおっぱいをよりおっきく見せるようなポーズをしてるけど……)  鏡の中の自分自身を色っぽい――つもりの――眼差しで見つめながら、胸の谷間――もちろん鳴にそんなものはない――をぐっと強調してみる。 (……やっぱり俺のささやかな胸筋じゃ意味がないな。筋肉メガ盛りのマッチョなお兄さんならともかく)  やる前からわかりきっていたことをしみじみ実感したときだった。鏡の中で雪生と目が合った。 「……なにその妙ちきりんな目つき」  いつから鳴の行動をながめていたのか。姿見に映った雪生は冷ややかさと生温かさが同居したなんとも奇妙な眼差しで鳴を見つめている。 「妙ちきりんはおまえのほうだ。なんだその脳みそが熱で膿んだような世にも不気味な目つきは。薄っぺらい胸筋を寄せていったいなんの意味があるというんだ」 「膿んだ脳みそて……。ちょっとグラビアアイドルの真似をしただけなんだけど」 「おまえみたいなグラビアアイドルが載っていたら、その雑誌は即座に廃刊だな。目の毒どころかメンタルの毒だ。有害極まりない」 「毒舌家の雪生に毒毒毒って言われたくないよ」  今日も今日とてご主人様は口が悪い。すっかり慣れたというか慣らされたのでたいして気にもならないが。  さんざんなことを言う割りに、心の中では鳴を友人と認めていたり、子供のころからの夢を打ち明けてくれたり、他の人間とちょっと親しくしただけで焼きもちを妬いたりと、なかなか可愛いところがあることを、今の鳴は知っている。

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