238 / 279
史上最悪の恋 2
夏野菜たっぷりの朝食を済ませると、鳴と雪生は畑の手伝いをすることにした。
祖父の友人の家に一週間もお世話になる以上、家人の手伝いをするのは当たり前の話だ。
雑草を刈ったり水をやったり、畑の手伝いが終わると、次はいよいよ思い出の川の散策だ。
(初恋の子かあ……。初恋よりも今の俺には目の前の恋のほうが問題なんだけど……)
部屋にもどってサーフパンツと薄手のパーカーに着替えながら、出かかった溜息を押し殺す。
鳴の想いを知ったら、雪生は果たしてどうするだろう。
笑うのか、呆れるのか、ドン引きするのか、それとも軽蔑するのか。
どの表情や態度もリアルに想像できてしまい、心臓がズキズキ痛む。
鳴はパーカーのファスナーを上げながら、雪生へちらりと視線を向けた。その途端、またもや心臓が肋骨に激突した。
黒いサーフパンツからすんなりした脚が伸びている。雪のように白い脚が眩しくて、鳴はさっと目を逸らした。
(いやいやいや! 雪生の脚なんて見慣れてるでしょ、俺! そりゃ雪生は短パンとか滅多に履かないけど! でも、だからって男の脚で動揺するなよ!)
鳴は心臓を落ちつかせようと左胸に手の平をあてた。
(っていうか、雪生は俺のことを友達だって想ってくれてるのに。その友達をやらしー目で見るなんて……!)
「俺って最低だーーーっ!」
鳴は両手で顔を隠しながら、畳の上をごろごろ転がった。なにかにドンッとぶつかって身体が止まる。
「なにをやってるんだ、おまえは」
顔から手を離して見上げると、上から雪よりも冷ややかな視線が降ってきた。
どうやら雪生の足にぶつかって止まったらしい。
「え、えーっと」
雪生の脚をいやらしい目でみてしまったので転がりながら反省してました、などと正直に言うわけにもいかない。
「川で泳ぐ前の準備運動をちょっと」
「ずいぶん変わった準備運動だな」
「セレブの雪生は知らないだろうけどさ、庶民はこうやって準備運動するんだよ」
「庶民に怒られるぞ」
ひと悶着あったものの、ふたりは着替えを済ませると思い出の川ヘ向かった。
田舎道を十分ほど歩くと、雑木林の中に細い獣道が伸びている。この獣道を下っていくと例の川に行き当たる、と雅美は畑に向かう途中でふたりに説明してくれた。
「……ここかあ」
雑草を踏みしめながら道を下っていくと、流れの緩やかな清流が左右に伸びていた。川幅は三メートルほどで、大きな岩が川面からごつごつと突き出ている。
水深も浅そうだし子供が遊ぶにはおあつらえ向きの場所だ。
鳴はバスタオルやペットボトルの入った鞄を川岸へおくと、あたりをじっくり観察した。
ともだちにシェアしよう!