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史上最悪の恋 6

 その日の夜、鳴はまたもや寝つけずにいた。  雨戸の向こうから虫の鳴き声が微かに聞こえてくる。  昨夜はほとんど眠れず終いだった。睡眠不足のはずなのに睡魔はどこか遠くへ旅立ってしまったのか、一向に訪れてくれない。  夜のしじまの中で考えるのはもちろん雪生のことだ。 (これからどうしたらいいんだろ……。告白したほうがいいのかな。振られるのはわかりきってるからそれはいいとして、嫌われたらつらいよなあ……)  嫌われてしまったらもうこうしてふたりで旅に出ることもない。寮の部屋からも追い出されるだろうし、奴隷もクビになるだろう。  言葉を交わすことさえなくなるかもしれない。  考えただけで目の奥がじわっと痛くなってくる。  鳴さえ黙っていればこのままでいられる。雪生が高校を卒業するまでふたりは友達のままだ。 (でも、それって雪生を騙し続けるってことだよね。雪生は俺を信頼しているから友達だって認めてくれたのに……)  隣で眠っている雪生へそっと首を傾ける。常夜灯の仄かな灯りが雪生の寝顔を淡く照らし出している。  心臓が痛い。見えない手でぎゅっと握りしめられているみたいだ。  なんだってこんなことになってしまったのか。恋の相手が男だなんて。それもよりによって桜雪生だなんて。  こんなのまるで三上菜々の書いた小説の世界じゃないか。  鳴が雪生に恋してしまったと知ったら、菜々は狂喜乱舞するにちがいない。菜々にだけは知られないようにしなくては。 (いや、三上さんだけじゃなくって陽人とか如月先輩とか、とにかく誰にも知られないようにしないと)  誰に知られてもろくなことにならないのはわかりきっている。相談できそうなのは朝人くらいか。でも、相談したところで困らせてしまうだけの気がする。  孤立無援。四面楚歌。孤軍奮闘。そんな四文字熟語が思い浮かんだときだった。  鳴はびくっと肩を竦めた。  振り子時計の重々しい鐘の音が鳴り響いたからだ。 (……そういえば子供のころはこの音が怖かったっけ。なんだか今にもお化けが出てきそうで) 「眠れないのか?」  雪生の声は寝惚けているのか少し不明瞭だった。もう一度、隣へ目を向けると、眠たそうな目をした雪生が鳴を見ていた。 「あ、うん、ちょっとね」 「ひょっとして振り子時計の音が怖いのか?」 「え? いや、そういうわけじゃ……まあ、ちょっと不気味だよね。ホラーちっくでさ」  雪生は小さな溜息を吐くと、鳴へ左手を伸ばしてきた。ひんやりした手の平が鳴の右手を包みこむ。 「手を握っててやる。それなら怖くないだろ」 「えっ、ちょっ――」 「おまえ、子供みたいな手をしてるな。微熱があるみたいだ」 「……俺の手が熱いんじゃなくって、雪生の手が冷たいんだよ」 「そうか?」 「そうだよ」  なんだこれは。まるで恋人同士みたいなシチュエーションじゃないか。  心臓がドッドッとうるさい。夜の静けさの中にいると雪生の耳に届いてしまいそうで不安になる。
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