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ファーストラブ 3
「……雪生があんな小さな生き物を怖がるなんて意外っていうか」
鳴は頬をさすりながら呟いた。
「異形の生命体なんて拒否反応を示すのが当然だ。あんなものに触れるおまえの気がしれない」
雪生は不機嫌そのものの表情で鳴を睨んでいる。
ヤバい。好感度がだだ下がりだ。
「あれ……?」
雪生の顔を見ていたら何かがふっと浮かび上がった。
前にもこんなことがあったような――
「あっ! 思い出した!」
「何を思い出したか当ててやろうか」
雪生は不機嫌な表情を崩さずに言った。
「え? いや、いくら雪生が頭よくってもそんなことまでわかるはず――」
「初恋の相手にも今と同じことをしたんだろ。カブトムシを捕まえてプレゼントしようとしたけど、相手を怖がらせて怒らせてしまった。違うか?」
鳴はぽかんと口を開けた。
「よくわかったね……。その通りだよ」
さすがは齢十四にして大学を卒業した天才だけのことはある。洞察力が凄まじい。
雪生の言った通り、幼かった鳴は初恋の少女にカブトムシをプレゼントしようとした。
いいところを見せたかったのだ。
『そんな得体の知れないものを近づけるな! 僕は虫が大嫌いなんだぞ!』
思い出の中の少女は鳴を涙目で睨んでいる。
(ひょっとして俺って虫嫌いがタイプだとか? いや、雪生が虫嫌いなんて知らなかったけどさ)
それにしても妙な符号だ。
……なんだか嫌な予感がする。昨日からまとわりついているこの感覚はいったいどこから生まれたのか。
(……ていうかさ、初恋の子って雪生に似過ぎじゃない? 見た目だけじゃなくて虫嫌いなところとか、俺が鐘の音を怖がってたら手を握ってくれたりとか……。『庶民のくせに生意気な』なんていかにも雪生が言いそうな科白だし――)
そこまで考えてハッとする。
これってただの偶然の一致だろうか。
ここを訪れた最初の夜、雪生は言ってなかったか。
小学校二年生のころ、祖父の友人の家へ遊びにいったと。そのとき蚊帳の中で眠ったと。
鳴が初恋の少女と出会ったのもちょうどそのころだ。
パズルのピースがパタパタと音を立てて繋がっていく。
血の気がざーっと引く音が耳の奥から聞こえた。
「どうかしたのか、鳴。顔色が悪いぞ」
雪生は面白そうに鳴を見ている。先ほどまでの不機嫌さは綺麗さっぱり消えている。
いや、でもまさか。そんなはずはない。だって、あの子は女の子で――
鳴は改めて雪生の顔を凝視した。
整うだけ整った顔。女に生まれていたとしてもさぞかし美人だっただろう。子供のころは女の子みたいに可愛かったに違いない。
血の気がますます引いていく。
「お、俺、先に帰ってるから……!」
鳴は真夏の田舎道を脱兎のごとく駆け出した。
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