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ファーストラブ 11
「日本にもアメリカにもおまえみたいな奴はいなかった。俺をただの一個人として受け止め、バックボーンを歯牙にもかけないような奴は、おまえひとりだけだ」
「たったそれだけのことで……?」
脳裏にパールピンクのドレスをまとった少女の姿が浮かび上がる。パーティーで出会った雪生の婚約者候補のひとり。名前は忘れてしまったが、アイドル顔負けの可愛い子だった。
見た目も家柄も桜雪生にふさわしい相手。そんな相手は雪生の周囲にはいくらでもいるはずだ。
それなのに鳴を選ぶなんて――理解不能だ。
「雪生って悪趣味だねえ……」
「自分でそれを言うのか」
鳴がしみじみ呟くと、雪生は面白そうに笑った。
叶わないと思っていた恋が実ったのだ。万歳三唱で喜ぶ場面なのかもしれないが、いまいち現実感が湧いてこない。
まるで夢を見ているみたいで、頭の中がふわふわ揺れている。
「あの……つかぬことをお伺いいたしますが……」
「敬語はやめろ。鳥肌が立つ」
「俺のことが好きって、いったいいつから……?」
入学式からずっと一緒に過ごしてきたのに、雪生の想いにまったく気づかなかった。
考えてみれば鳴が女子ならともかく、男でも遊理のような美形ならともかく、好きでもない平凡男子にキスしたり、あまつさえ股間を揉んだりするはずがなかった。
初めて股間を揉まれたのは再会したその日――入学式当日だったが、まさかその時点で鳴に恋していたというんだろうか。まさか。
「自分の気持ちに気づいたのはゴールデンウィークだったな」
雪生の声は淡々としていた。
ゴールデンウィークというと雪生が鳴の家へ泊まりにきたときだ。
「あのときは絶望した。神を呪ったし、己の悪趣味さを一晩中嘆き続けた」
雪生の眼差しがふっと遠くなる。かつて与えられた過酷な試練を思い出すような眼差しだ。
そういえば雪生が泊まりにきて二日目、目を覚ますのと同時に雪生と目が合ったことがあった。
おまえの寝顔を見ていた、と雪生は言ったが、甘い言葉とは裏腹にあのときの雪生は暗澹たる表情をしていた。
なるほど。鳴への想いを自覚して絶望していたのか。
ずいぶんな、と思ったが、雪生への想いに気づいた鳴も同じように絶望したのだ。
(人のこと言えないか……って恋に気づいてお互い絶望するっていったいどうなの)
「いくら嘆いたところで気持ちを変えられるわけじゃない。俺は神から与えられた試練として受け入れることにした」
「……人を罰ゲームみたいに言わないでくれる?」
雪生の手がすっと伸びて頬に触れた。心臓が魚のようにびくっと跳ねる。
「気づいたのはゴールデンウィークだけど、好きになったのは九年前、おまえに出会ったときだ」
「――――――」
「あのときからずっと好きだった。今ならわかる。……おまえにキスしてしまった時点で気づくべきだったな」
恋心の自覚もなく人にキスしまくったり股間を揉んだりしていた、ということか。いったいどういう交際を積み重ねてきたのかうっすらと想像できる。
「おまえが傍にいるとかまいたくて、触りたくてしょうがなかった。おまえの反応が面白いからだと思っていたのに、まさか恋愛感情だったとはな」
雪生の指が顎を伝い、首筋を伝う。それにつられたように汗が首筋を伝い落ちていく。
鳴は微動だにできずに雪生の言葉を聞いていた。
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