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ファーストラブ 12

「おまえはどうなんだ?」 「――え?」 「おまえもずっと俺のことが好きだったんだろ?」  なんという自信家な科白だろう。鳴は少々呆れたが、気弱な雪生なんて想像もつかないからこれくらいでちょうどいいのかもしれない。 「え、いや、俺は雪生が初恋の子だって知らなかったし。初恋の子のこともずっと忘れてたし。……えっと、だから改めて雪生にこ、恋したっていうか」  なんだこれ。本人に面と向かって言うのは恥ずかし過ぎやしないか。  言う側もだが言われる側も照れそうなものなのに、雪生の顔には微塵ほどの照れもない。 「つまり両想いということだな」 「はあ……まあ、そんな感じです……」  雪生と両想い。冗談にしか聞こえないが、どうやら事実らしい。  現実感がますます遠退く。  鳴が半ば呆然と座りこんでいると、縁側がぎしっと軋んだ。すぐ目の前に雪生がいる。  両手に頬を包みこまれて、顔が近づいてくる。  同じ人間――それも同じ民族、同じ性別とは思えない造作の整った顔。改めて見惚れていると、いつものごとくキスされた。  心臓がドクッと唸り、反射的に身体が逃げようとする。 (――あ、逃げなくってもいいのか。りょ、両想いなんだから)  両想いだとわかる前からさんざんキスしていたのだ。お互いの気持ちを確かめあったいま逃げる理由はひとつもない。……はずだ。たぶん。  躊躇うことなく雪生の舌が入ってくる。  キスなら数え切れないほどしてきた、というかされてきたが、今まででいちばん濃密なキスかもしれない。  ……ヤバい。身体の力が抜ける。人様の家で気持ちよくなってていいのか、おい。頭の奥からごもっともなツッコミが入る。  鳴は無意識に雪生の腕を握りしめていた。  唇は離れてもまたすぐに重なり、溶かすように口内を舐めてくる。  キスなら再会してからさんざんしてきた。でも、雪生が好きだと気づいてからするまともなキスはこれが初めてだ。  今までとは何かがちがう。身体だけじゃなく心まで溶かされそうになる。  ヤバい。まずい。ヤバい。  これ以上続けたら自分で自分がどうなるかわからない。 「ゆき――」  身体を離そうとしたら、逆に縁側へ押し倒された。  雪生は薄く微笑んで鳴を見下ろした。甘いのにどことなく不穏な笑み。 「鳴――」  耳許で囁かれた。と思ったら耳朶をやんわり噛まれた。神経が引きつる。きっと顔も引きつってるはずだ。 「ゆ、ゆき――っ!」  片手がTシャツの下へするりと入りこむ。  いったい何をする気なのだ、と問うまでもない。それくらいは童貞にも察しがつく。 「ちょ、ちょ、ちょっと待ったーーー!」  鳴は雪生の肩をつかんでベリっと引き剥がした。 「人様の家で、それも縁側で何する気だよ! 野田さんたちがいつ帰ってくるかわからないのに!」  真っ赤な顔で文句を言うと、 「それもそうだな」  雪生は拍子抜けするほどあっさりとうなずいた。 「すまない。いくら相手がおまえとはいえ俺の配慮が足りなかった。たった一度しかない初夜なのに、人の家の縁側じゃあまりにムードがなさすぎるな」 「しょ、初夜!? 初夜ってなんなの!」 「知らないのか? 恋人同士や夫婦が初めて過ごす夜のことだ」 「言葉の意味を訊いてるんじゃないよ!」  なんだって一足飛びに初夜の話になっているのか。九年の時を経て、やっとお互いの気持ちが通じ合ったばかりだと言うのに。  初夜うんぬんの前に成すべきことがあるんじゃないのか。だいたい今は真っ昼間だ。

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